研究課題
ヒト子宮内膜のダイナミックな変化は、性ステロイドホルモンによる内分泌作用だけでなく、低酸素刺激あるいは低酸素誘導因子HIF(Hypoxia inducible factor)の関与が示唆されている。HIFは、低酸素刺激で細胞内に誘導される転写因子であり、細胞応答のマスターレギュレーターとして機能している。子宮内膜機能の解明には、性ステロイドホルモンの内分泌調整だけでなく、低酸素刺激およびHIF-1シグナル経路の機能解析が必要である。患者同意のもとに採取したヒト子宮内膜組織を、機械的および酵素的に融解して、ヒト子宮内膜間質細胞を分離培養した。低酸素刺激としてタバコ抽出液(CSE)を用いた実験を行った。細胞増殖能に関して、CSE1%以上で用量依存的に細胞増殖が抑制された。子宮内膜機能調節に関わる血管新生因子としてVEGF、ANGPT、SDF-1を検討した。VEGF発現量は、CSE 0.025%以上の濃度で増加した。一方、SDF-1,ANGPT1, ANGPT2の発現量は、有意に変化を認めなかった。HIF-1に誘導されるGLUT1発現を検討したところ、VEGFと同様にCSE0.025%以上で有意に増加していた。さらに、HIF-1タンパク発現量については、CSE0.25%をピークに増加していた。CSE刺激により、HIF-1、VEGF、GLUT1の発現が誘導されることが明らかとなった。プロゲスチンに直接制御される転写制御因子群の一つであるHAND2とIL15との関連を解析した。クロマチン免疫沈降―定量PCR法によりHAND2がIL15遺伝子発現制御領域に結合していた。レポーターアッセイを用い、細胞内へのHAND2導入がIL15遺伝子発現制御領域の転写活性を増大させることを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
ヒト子宮内膜において、低酸素刺激と性ステロイドホルモンにより、局所因子がどのように制御されているかを細胞・分子生物学的に検討し、そこに関連する因子を同定することを目的としている。低酸素刺激やプロゲスチンの添加培養後、回収した細胞からRNAを抽出・精製し、ゲノムDNAの混入を防ぐためにDNase処理をしたRNAを用いてcDNAを作製してリアルタイムPCRを施行した。これまで子宮内膜機能に関与している血管新生因子が、プロゲスチンにより特異的に制御されていることを明らかにした。さらに、CSEによる低酸素刺激で、HIF-1、VEGF、GLUT1の発現が誘導されることを確認でき、計画は順調に進んでいると考えている。
低酸素刺激については、ANGPT1/2などの他の血管新生因子の発現調整やGlutファミリーの発現変化について詳細に解析して、低酸素刺激としてタバコ抽出液(CSE)を用いた研究を継続する。子宮内膜機能に関与している血管新生因子と性ステロイドホルモンに制御される転写制御因子HAND2との関連に着目して解析を行う。これらの結果を基に、CSEと性ステロイドホルモンの相互作用について解析を進める。患者由来の初代培養細胞を用いた実験では、採取時期が不定期であることや細胞の不均一性の可能性があり、この対策として、不死化子宮内膜間質細胞での実験準備を進めている。
当初の予定より、多くの因子について、リアルタイムPCRで詳細な評価を実施する必要が生じた。研究の遂行上、培養液中への分泌量についてはELISA法で評価し、蛋白質を抽出してWestern blot法を用いて発現動態を定量的に解析する必要がある。試薬が入手できず、次年度に分泌量や蛋白量を解析する予定である。
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