研究課題
これまでに卵巣明細胞癌にて低酸素・無血清培養条件下発現が誘導される細胞膜タンパク質ICAM-1は細胞内にて生理的な表皮形成に重要であるフィラグリンのリン酸化を介して細胞の生存能(アポトーシスの抑制)を増強させる効果があることを示してきた。本年度は、卵巣明細胞癌細胞(OVISE, TOV21G)において発現するフィラグリンの低酸素・無血清培養環境における細胞生存能増強効果についてそのメカニズムに関する知見を得るための実験を行い以下①~③の成果を得た。具体的には、①ICAM-1による細胞生存能増強効果には細胞表面上における他のタンパク質との相互作用が重要である可能性を考え、ICAM-1とインテグリンの結合を阻害することが知られている小分子化合物であるlifitegrastがICAM-1の効果をキャンセルするか検討した。その結果、OVISE, TOV21G両細胞についてこの薬剤の効果が認められたため細胞表面上における何らかの因子との結合がICAM-1の機能発現に重要と考えられる。②以前に行ったリン酸化タンパク質の質量分析実験の結果の精査によりDFFA(DNA fragmentation factor subunit alpha)の関与が示唆された。③フィラグリンの発現をレンチウイルスベクター系を用いたshort hairpin RNAを導入してノックダウンさせた細胞株とその陰性コントロール細胞の作成を昨年度に引き続きOVISEとTOV21G細胞について行った。その結果、現在までにそれぞれの細胞株について陰性コントロールとフィラグリンノックダウンの複数の細胞株を得ている。また、低酸素・無血清培養条件下発現が誘導されたフィラグリンの細胞培養培地への分泌が認められた。
3: やや遅れている
フィラグリン発現ノックダウン細胞を用いた動物実験まで到達予定であったが達成できなかったため。
これまでの研究の進行状況を踏まえて当初予定の進行状況に到達できるよう努力する。具体的には①細胞株の取得まで達制した実験については速やかに動物実験に移行してフィラグリンのin vivoにおける効果を検討する。②ICAM-1細胞表面上における相互作用因子の探索については、現在までにICAM-1の免疫沈降に適した抗体の選別を終えており、次年度にICAM-1結合因子の探索を質量分析により行う準備を終えつつある。③DFFA等あらたにアポトーシス抑制への関与が示唆された因子についてはRNA干渉法などにより低酸素・無血清環境におけるアポトーシス抑制への効果を検証予定である。また新たに得られた知見(フィラグリンの分泌)に関してはELISA等を行い、さらに検討を続ける。
動物実験等の実験計画に遅れが生じ、次年度使用分とするため。
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