本研究では、卵巣癌細胞から卵巣癌幹細胞への転換において重要な役割を果たす遺伝子を特定することを目的として、ハイドロゲル培養法を用いて卵巣癌幹細胞の誘導系を確立し、細胞内情報伝達機構の変化を詳細に解析することで、抗がん薬耐性の克服などを通じて難治性卵巣癌の治療成績を向上させることを目指している。 in vitro実験では、Sox2、Nanog、Oct3/4の3つの幹細胞バイオマーカーを用いて、ハイドロゲル上で培養された細胞の幹細胞性を確認した。ついで、Polystyrene培養皿上で培養された細胞を対照群、ハイドロゲルによって誘導された癌幹細胞を実験群とし、それぞれ500個の細胞をマウスの卵巣に移植し、IVIS発光イメージングにより同一観察期間における腫瘍形成能の差異を検討した。その結果、実験群では腫瘍が形成されたのに対し、対照群では腫瘍が形成されなかったことから、実験群の細胞の高い腫瘍形成能が示された。さらに、マイクロアレイ法を用いた網羅的遺伝子発現解析を行い、4種類の細胞株に対する多群間比較から、幹細胞群で特異的に高発現する遺伝子AおよびBを特定した。令和6年度中に特許申請の可否の検討並びに研究成果の論文化を進める予定である。 本研究によって確立されたハイドロゲルを用いた卵巣癌幹細胞の安定した誘導方法は、他の方法と比べて簡便かつ迅速であり、3次元浮遊培養に比べて体内の環境に近い条件を再現できると考えられる。この技術の応用により、卵巣癌以外の婦人科がんの幹細胞に関する新規の重要な知見が得られることが期待される。
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