研究課題
腹腔内の最大の構成要素である中皮細胞は、貪食能を有している。近年、貪食細胞の重要性が、神経損傷をはじめ様々な分野で報告されている。本課題では、(1)腹膜中皮細胞の卵巣癌細胞に対する貪食機能の解析を行い、(2)その結果、腹膜中皮細胞にどの様な変化が生じるのかを評価する。(3)そして、その変化が腫瘍微小環境へどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、(4)宿主の腫瘍免疫を再賦活化する方法の探索を行う。令和4年度は、前年に引き続き(1)及び(2)を中心に遂行した。不死化したマウス由来中皮細胞と同系のアポトーシス誘導マウス卵巣癌細胞を共培養し、貪食性中皮細胞をFACSにより分取し、分取した貪食性中皮細胞からRNAを抽出し、免疫関連遺伝子の発現を定量的PCRにより解析した。これらの結果、定量的PCR解析では、免疫関連遺伝子及び脂質代謝関連分子の有意な発現変化が確認された。免疫抑制誘導分子の発現が増加し、一方、免疫共刺激遺伝子の発現が減少していた。これらの結果から、細胞片を貪食した中皮細胞は免疫抑制を誘導する性質があることが示され、卵巣癌細胞の宿主免疫系からの逃避に寄与している可能性が示唆された。また、本課題が予定通り進まない時に備え、癌関連中皮細胞(CAM)による宿主免疫系の抑制化に関しても準備を進めた。加えて、癌細胞側にも注目し、細胞表面分子であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(Chondroitin Sulfate Proteoglycan 4、CSPG4)、及びCD271の役割に関しての解析も行った。試験管内及びマウス個体内での解析の結果、CSPG4もCD271も癌の悪性化に寄与することが分かった。卵巣癌の新規治療標的として新たな知見をもたらすことが期待された。
3: やや遅れている
不死化したマウス由来中皮細胞と同系のアポトーシス誘導マウス卵巣癌細胞を共培養し、貪食性中皮細胞をFACSにより分取し、分取した貪食性中皮細胞からRNAを抽出し、RNAシーケンス用サンプル調製条件の最適化に時間がかかっている為。動物実験施設の改築に伴い、動物実験計画の一部に遅延が生じている。
(1)、(2)の詳細な解析を実施する。特に、(2)においてオミクス解析を実施し、貪食した中皮細胞において、どのような変化が生じているかを明らかにする。(3)の 動物モデルでの解析を進める。貪食したマウス中皮細胞を同系マウスに接種し免疫を行う。その後、マウス卵巣癌細胞を移入し、癌細胞の増殖や宿主の抗腫瘍免疫を評価する。(4)において、必要となる評価系の構築を進める。加えて、本課題が予定通り進まない時に備え、癌関連中皮細胞(CAM)による宿主免疫系の抑制化に関しても準備を進める。貪食に関する解析は含まれないが、申請者らは、CAMによる卵巣癌細胞への浸潤能や抗がん剤耐性の増強に関して報告してきており、CAMは腫瘍微小環境において重要な役割を果たしていることが示されている。しかし、CAMと免疫系に関しては明らかになっておらず、CAMによる免疫系の制御の解明自体にも大きな価値がある。これには本研究に用いられる材料等が転用できる。また、癌細胞側にも注目し、卵巣癌におけるCD271の役割に関しての解析も進める。
進捗状況に遅れが生じており、実施予定であったオミクス解析、マウス実験が翌年に持ち越される為。これらは翌年度に実施する予定であり、合わせての使用額となった。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 1件)
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