研究課題/領域番号 |
21K09495
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (10534604)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 子宮筋腫 / MED12変異 / 異種移植モデル / 選択的プロゲステロン受容体調整剤 |
研究実績の概要 |
子宮筋腫は良性腫瘍だが罹患率が高く,根治には子宮摘出等の外科的処置が必要なため看過できない。現在,子宮温存に有効な薬剤には選択的プロゲステロン受容体調整剤のウリプリスタル酢酸(UPA)があるが,既に実用化されている欧米ではその効果に個人差があることが報告されている。子宮筋腫のドライバー変異の 1つである MED12変異は約7割の検体で検出され,この変異の有無により子宮筋腫は 2つのサブタイプ(変異を有する MED12(+)筋腫と有しない MED12(-)筋腫)に分類される。最近,これらの筋腫サブタイプ間では腫瘤を構成する平滑筋細胞(SMC)と線維芽細胞(FB)の比率が異なることが判明した。また,SMC と FB は性ホルモンの感受性が異なるため,UPA の効果は筋腫サブタイプにより異なることが予想される。従って,UPA の効果の個人差に患者が有する筋腫のサブタイプの違いが関わる可能性が考えられる。そこで,本研究では異種移植モデルを用いてサブタイプの違いによる UPA の効果の差異について検討する。本年度は以下の研究項目において進捗があった。 Ⅰ)異種移植モデルによる MED12(+)筋腫・MED12(-)筋腫における UPA の作用機序の解析:子宮筋腫の初代培養細胞をコラーゲンゲルで凝集した細胞塊を重度免疫不全マウスの腎被膜下に移植して,エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)の投与により移植細胞の増殖を促し,腫瘤を増大させる異種移植モデルを確立した。この異種移植モデルにより MED12(+)筋腫・MED12(-)筋腫のそれぞれについて UPA 投与による効果を組織学的に検証し,さらに UPA の作用機序の解明のためにトランスクリプトーム解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ⅰ)異種移植モデルによる MED12(+)筋腫・MED12(-)筋腫における UPA の作用機序の解析:子宮筋腫における性ホルモン感受性の研究において,現在唯一の有効な実験系である異種移植モデルを確立して,UPA の作用機序の解明を試みる。MED12変異の有無を判定した子宮筋腫を初代培養し,凝集した培養細胞の塊を重度免疫不全マウスの腎被膜下に移植した。移植期間は8週間とし,移植細胞の増殖促進のため,週 1回 EP デポーを投与した。この方法により移植細胞由来の腫瘤が EP 依存的に増大する異種移植モデルを確立した。UPA 効果の検証のため,4週間の EP 投与で腫瘤を増大させた後,4週目以降4群に分けて維持した[EP を継続投与する群,EP の投与を止める群,P の投与のみを止める群,EP と UPA を同時に投与する群]。移植8週で移植腎臓を回収し,腫瘤サイズ,組織形態,SMC と FB の構成比および膠原線維量を調べた。最終的に MED12(+)・MED12(-)筋腫それぞれ10検体以上について解析する予定だが,これまでにそれぞれ9および8検体を既に解析している。また,UPA の作用機序解明のために令和4年度以降に予定していた RNA シークエンスによるトランスクリプトーム解析を今年度中に開始している。 Ⅱ)分離培養した SMC および FB それぞれにおける UPA の作用機序の解析:子宮筋腫の初代培養については,分離培養を始める以前に性ホルモン感受性が培養期間中に消失するという問題を解消する必要があった。そこで,EP の受容体がどちらも維持されている培養7日までの短期で解析する方針で検討を進めたが,EP 受容体が維持されているにもかかわらず性ホルモン感受性が観られないという結果になり,問題は解消されていない。
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今後の研究の推進方策 |
Ⅰ)異種移植モデルによる MED12(+)筋腫・MED12(-)筋腫における UPA の作用機序の解析:これまでに MED12(+)筋腫および MED12(-)筋腫でそれぞれ9および8検体を解析しているが,それぞれ10検体以上まで検体数を増やす。UPA 投与の効果については組織学的解析により,サブタイプ間で共通する効果と異なる効果が判明してきているので,検体数を増やしそれらの再現性を確認する。また,UPA の作用機序を推察するため,これまでに,各筋腫サブタイプについて UPA 投与により組織学的に典型的な反応が観られた各3検体ずつを選出し,RNA シークエンスによるトランスクリプトーム解析を行っている。今後は,それらのデータを基にパスウェイ解析等を行うことで,UPA 投与による筋腫サブタイプ間で共通した効果および異なる効果をそれぞれ説明し得る採用機序を推察し,検証する。トランスクリプトームデータについては,異種移植により形成された腫瘤が元となった筋腫検体の組織および培養細胞の性質をどの程度維持・反映しているかを検証するためにも使用する。そのため,今後は元になった検体組織・細胞についても RNA シークエンスを行う。 Ⅱ)分離培養した SMC および FB それぞれにおける UPA の作用機序の解析:子宮筋腫の初代培養については,EP の受容体が維持されているにもかかわらず性ホルモン感受性がないという問題が解消されていない。この問題の解決は,現在の平面培養では難しいと思われるので,生体内の状態をより反映したスフェロイド培養あるいはコラーゲン・マトリゲル等を用いた三次元培養を検討する。最終的に上記を検討しても EP 感受性を維持した培養系が再現されない場合には,培養系は諦めて異種移植モデルによる解析に絞って研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:令和3年度は培養系の確立がうまく進められなかったため,「消耗品費」の主に細胞培養関連の費用が残った。また,今年度の RNA シークエンスのシークエンスの外注費とマウスの飼育費は他の研究費で賄えたため「その他」の費用が残った。 使用計画:令和4年度は引続き異種移植とトランスクリプトームを継続するため、次年度使用金は重度免疫不全マウスと免疫染色関連試薬の購入および RNA シークエンスの外注に使用する。また,研究成果を公表するため,論文投稿および英文校正にも使用する。
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