研究実績の概要 |
卵巣癌組織と生体試料(血漿、尿、唾液)のメタボローム解析結果からすべての試料で共通して産生が亢進していた代謝物はN1,N12-diacetylspermineであった。ROC曲線を作成してN1,N12-diacetylspermineによる群間識別能力の解析をそれぞれの試料で行ったところ、組織、血漿、尿と唾液のAUC値は、それぞれ0.950 (p<0.0001)、0.734 (p=0.0011) 、0.755 (p=0.0004) 、0.681 (p=0.0124)であった。N1,N12-diacetylspermineはすべての試料において卵巣癌と正常を判別する高い識別能力があることが明らかになった。さらに卵巣明細胞癌患者(11名)のメタボローム解析結果から再発なし(no recurrence; NR)群(7例)と再発あり(recurrence; R)群(4例)で代謝物を比較した。また各症例における癌組織と正常組織の代謝物の差分解析を行った上で、NR群(6例)とR群(3例)での代謝産物を比較した。R群ではNR群と比較してγ-アミノ酪酸 (GABA)、2-アミノ酪酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NADH, NAD)、コハク酸、S-アデノシルメチオニン (SAM)、スペルミン、GDP-マンノースの産生が有意に亢進し、産生が低下している代謝物は認めなかった。差分解析を行ったところ、R群ではNR群と比較してGABA、コハク酸、NADHの産生が有意に上昇し、グルタミン、ヒポキサンチン、グルコース6リン酸の産生が有意に低下していた。卵巣明細胞癌組織内の代謝プロファイルからTCA回路、解糖系、尿素回路、メチル化・エピゲノム制御が活性化した癌では再発し、予後が不良となる可能性が示唆された。
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