不妊治療で行う体外受精胚移植(IVF-ET)では卵子の質の低下のため満足いく妊娠率が得られていない。生殖補助医療技術の進歩にもかかわらず、卵子の質を向 上させる有効な方法も確立していない。松果体ホルモンであるメラトニンは卵胞液中にも高濃度に存在し、その抗酸化作用によって活性酸素から卵子や顆粒膜細 胞を保護することが明らかとなっており、卵子の質の向上を目的とした不妊症患者に対するメラトニン投与の臨床応用も行われている。しかし、メラトニンが卵 子の質をどのようなメカニズムで向上させるのかは明らかでなく、遺伝子レベルでの詳細な検討が望まれる。そこで、このメカニズムを解明するため、卵子の質 の不良な症例に対してメラトニン錠3mg/日を併用して体外受精胚移植を施行し、採卵時に採取した顆粒膜細胞を用いて実験を行った。メラトニン投与によって受精率が上昇し、さらに胚盤胞が得られた症例において、メラトニン投与前後でどのような遺伝子変化がみられるかを顆粒膜細胞の遺伝子解析をRNAシークエンスで行った。 クラスタリング分析では、メラトニン投与によって網羅的な遺伝子発現は、卵子の 質良好な体外受精胚移植の成績良好群の遺伝子発現に近づくことが確認できた。Gene ontology解析では、メラトニン投与群では細胞死の抑制、T細胞活性、ステロイド産生、血管新生に関する遺伝子群が変化を認めた。これらの遺伝子群を制御 することでメラトニンは卵子の質の向上に関与していると考えられた。卵胞液中の細胞における遺伝子発現をsingle cell RNA sequence (scRNA seq)で解析することでより詳細なメラトニンの作用を解明する予定が、条件設定が調整できず施行できなかったが、本研究成果によって、メラトニンが体外受精胚移植の卵子の質を向上させるメカニズムを解明することができた。
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