研究課題/領域番号 |
21K09530
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
根木 玲子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 室長 (90600594)
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研究分担者 |
宮田 敏行 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 客員研究員 (90183970)
吉松 淳 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (20221674)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遺伝性血栓性素因 / 静脈血栓塞栓症 / 妊娠 / 抗凝固療法 / 遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
妊娠中の治療量抗凝固療法は未分画ヘパリン(UFH)で行うが、妊娠中の凝固因子群の増加により活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を用いたモニタリングが困難な症例がある。申請者は国立循環器病研究センター 産婦人科部では、既存のプロトコールを日本人の妊婦向けに改良したUFH治療量抗凝固療法のプロトコールを作成し、抗Xa活性(ヘパリン血中濃度)を用いた検証を行っている。対象疾患は、妊娠中に静脈血栓塞栓症(VTE)を発症した妊婦、非妊時にワルファリンなどにより既に治療量抗凝固量受けている症例である。また、VTEよりさらに高用量のUFHを用いる機械弁置換術後の妊婦にも着目しより強力な抗凝固療法のプロトコールを作成し、症例を登録して検証を行っている。これらの症例に対して用いたプロトコールを、抗Xa活性で検証した結果、概ね治療域内であり血栓や大出血のイベントなく安全に管理可能であったことを発表した。 申請者らは先行研究によりVTE候補遺伝子パネルを作成し、次世代シークエンサー(NGS)を用いてVTE患者の解析を行っている。このパネルには、アンチトロンビン(AT)、プロテインC(PC)、プロテインS(PS)などの遺伝子が含まれている。これらの先天的欠乏である遺伝性血栓性素因にまず着目し、妊娠(一部に女性ホルモン剤内服患者を含む)と関連して発症したVTE患者で解析を行い、臨床情報と照合し検討した。その結果、VTE候補遺伝子パネルでの同定率は約4割で、いずれも既存の病的バリントを同定した。中には2つの遺伝子にバリアントをもつダブルヘテロを同定し、パネル解析は候補遺伝子を一度に解析できるメリットがあると考えらた。しかし、本法でも検出不可能なバリアントもあると考えられるため、さらなる解析方法の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
妊娠関連血栓性疾患の治療量抗凝固療法に関する研究においては、申請者らの施設で症例を集積中であるが、VTE既往患者等において、途中で転院するケースもあり分娩まで追跡できず、苦慮している。機械弁置換術後の妊婦については、症例は目標集を集積している。 妊娠と関連して発症したVTE患者を対象とし次世代シークエンサー(NGS)を用いたVTE候補遺伝子パネルの研究は、現在、症例は目標数を集積しているが、検体払出の調整に時間を要しており、解析がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠関連血栓性疾患の治療量抗凝固療法に関する研究においては、症例集積のために引き続き情報発信していく。妊娠関連VTE患者における治療量抗凝固療法の我々のプロトコールの改良点を以下に示す。治療の目標値のAPTT比、すなわち患者のAPTT(秒)/正常対照のAPTT(秒)の設定は1.5~2.0、つまりAPTT 45~60 秒となるように控えめに設定している事(通常APTT比は1.5~2.5倍とされている)、ヘパリンと同時にAT 濃縮製剤の補充を行いAT活性値は常に70%以上を維持する事、血栓の安定期はヘパリン30,000 単位/日までとし、APTTを延長させることを深追いしない事などの工夫をしている。機械弁置換術後の妊婦のプロトコールについては、より強力な抗凝固療法を必要とするため、APTT比を2.0~3.0(60~90秒)とし、持続点滴としている。我々のプロトコールで母児共に安全に管理が可能であった。つまり、専門医による厳重な管理の下であれば、妊娠・出産も可能であった。これらの成果をまとめて原著論文として報告していく。 NGSを用いたVTE候補遺伝子パネルでは、VTE患者の検体を払出し、遺伝子解析を実施していく。今後一定の割合で、ダブルヘテロが同定されるものと思われる。同時に妊娠と関連した新たなVTEリスク因子を見出していくことで、最適な治療法に繋げる。また、同定が困難であったバリアントについては、大きな欠失などの構造バリアントである可能性があるため、今後の新たな解析方法も視野に入れた検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染収束後も、学会へのWEB参加型もあるため、現地参加の機会が少なくなった。また、遺伝子解析のための検体の払い出しに時間がかかったことなどによる研究の遅れにより、かかる経費の繰越金が生じた。次年度は、遺伝子解析の実施および情報発信のための論文投稿等の費用として充てる予定である。
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