研究課題/領域番号 |
21K09548
|
研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
馬場 長 岩手医科大学, 医学部, 教授 (60508240)
|
研究分担者 |
永沢 崇幸 岩手医科大学, 医学部, 助教 (10453309)
菅井 有 岩手医科大学, 医学部, 教授 (20187628)
利部 正裕 岩手医科大学, 医学部, 講師 (30382609)
大黒 多希子 金沢大学, 疾患モデル総合研究センター, 教授 (30767249)
佐藤 千絵 岩手医科大学, 医学部, 任期付助教 (70883726)
万代 昌紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (80283597)
濱西 潤三 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80378736)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 子宮体癌 / 漿液性癌 / マウスモデル / MDSC |
研究実績の概要 |
これまで同系マウスを組み合わせた子宮体部漿液性癌(SEC)モデルは存在せず、腫瘍局所の免疫寛容状態を検証できなかったが、我々はPten/Trp53d/dマウスをC57BL6純系に改編しマウス子宮体癌細胞株mECCを、さらにMyc増幅を加えることでSEC様組織型を呈して生体内増殖能の高いマウスSEC細胞株HPmECCを作成し、両細胞株を子宮に接種することで同所性腫瘍局所の抗腫瘍免疫プロファイリングを可能とした。2021年度は先行研究にて確立した免疫健常子宮体癌マウスモデルを用い、腫瘍-間質クロストークの検討を行った。すなわち、SEC様組織型を呈して生体内増殖能の高いマウスSEC細胞株HPmECCとその対照のmECCの2つのマウス腫瘍モデルのRNAseq解析からSECではサイトカイン分泌により腫瘍内にMDSCを遊走させ、免疫寛容状態を惹起することを実験系上で示し、MDSC駆除治療によりHPmECC担癌マウスの生存延長が得られたことから、腫瘍-間質クロストークが治療標的となることを見出し、その成果を論文報告した(Carcinogenesis)。またSECと同様の組織型を示し、遺伝子発現や免疫逃避プロファイルも似る卵巣漿液性癌についても局所免疫メカニズムの探索を進め、B7-H3が別のサイトカイン伝達経路を介してM2マクロファージを遊走させ免疫逃避機構を発揮することを見出し、論文報告した(Cancer Immunol Res.)。今後も引き続き腫瘍-間質クロストークについて多面的にアプローチし、抗腫瘍免疫の標的となる分子、経路を探索する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本研究計画予定は、①腫瘍微小環境下の抗腫瘍免疫作用を制御する腫瘍-間質クロストークの解明、②悪性度の高いSECの病態に即した実効性の高い生体内治療法の探索であった。 ①については、MDSCがSEC腫瘍局所で抗腫瘍免疫寛容状態を惹起させる因子としてCCL7を同定し、その機能解析にてCCL7が濃度依存的にMDSCの遊走を促すことを解明し2021年度中に英文論文報告を行い、まずは当初の計画について一つの成果を得た。さらに、表現型が近似している卵巣高異型度漿液性癌(OHGSC)についても局所免疫メカニズムの探索を行い、これまでに明らかにしていたMDSCの遊走とは別にM2マクロファージの遊走にB7-H3が働くことを解明して英文論文報告を行った。これにより、SECについてもMDSC以外にM2マクロファージや制御性T細胞(Treg)など他の抗腫瘍免疫細胞が働いている可能性が示された。 ②については、MDSCを除去する治療として抗Gr-1抗体投与を担癌マウスモデルで行い、マウスの生存期間が延長することを示し、先述した英文論文内で合わせて報告した。ただ、今回は免疫健常マウスに抗Gr-1抗体を投与に伴って本当に腫瘍局所で細胞傷害性T細胞(CTL)の集積が増加するかについては未検証であったため、今後の検証課題としている。さらにOHGGSCでは腫瘍辺縁部に蜂巣状T細胞があるもので、治療抵抗性を示すことを見出しており、SECについても同様の傾向があるか検証準備を進めている。 以上、それぞれの研究計画について当初の成果が得られた部分もあるが、2021年度も長いコロナ禍にあり、各実験施設でのオンサイトの研究が著しく制限されたため、マウス腫瘍実験計画が大幅に繰り延べになった。その代わり、共同研究施設とオンラインでの意見交換を行い、お互いの知見を交換することで当初想定していなかった成果も得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度までの研究計画とこれまでに得られた研究成果を融合させて2022年度以降の研究を進める。2021年度も前年から引き続いてコロナ禍にあり、各実験施設での研究遂行が著しく制限された。2022年度に入り、開放されてきた部分もあるが、依然コロナ禍は継続することが予想されており、研究計画については柔軟に調整を加える予定としている。 ①腫瘍微小環境下の抗腫瘍免疫作用を制御する腫瘍-間質クロストークの解明:現状では抗腫瘍免疫担当細胞としてMDSCの働きの一端を解明したに過ぎない。担癌マウスに抗Gr-1抗体を投与した後の腫瘍局所におけるMDSCおよびCTLの動態について追跡を行う。さらに抗腫瘍免疫逃避誘導を司る因子として、M2マクロファージ、Treg、さらには免疫シグナル管理基地としてのtertiary lymphoid structuresにも着目し、自家正常免疫機構を保持するSECモデル内での動態について研究分担者と解析を進める。 ②悪性度の高いSECの病態に即した実効性の高い生体内治療法の探索:前年までにCK2阻害剤によりSTAT1経路のセリンリン酸化を抑えることについては論文発表を行ったが、免疫寛容との連動は未解明のままである。SEC担癌免疫健常マウスでも治療実験を行い、サイトカインシグナルや腫瘍のエピゲノムに変化が生じるか、またMDSCやCTLの集積に変化があるか局所腫瘍解析を行い検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ禍にあり、各実験施設でのオンサイトの研究が著しく制限されたため、マウス腫瘍実験計画が大幅に繰り延べになったため、使用予定額が前年度から繰り越しとなっている。今年度の実験計画に組み込み、腫瘍部分と間質部分の分離解析、相互解析を行うこととする。
|