研究課題
2021年度は先行研究にて確立した免疫健常子宮体癌マウスモデルを用い、腫瘍-間質クロストークの検討を行った。すなわち、SEC様組織型を呈して生体内増殖能の高いマウスSEC細胞株HPmECCとその対照のmECCの2つのマウス腫瘍モデルのRNAseq解析からSECではサイトカイン分泌により腫瘍内にMDSCを遊走させ、免疫寛容状態を惹起することを実験系上で示し、MDSC駆除治療によりHPmECC担癌マウスの生存延長が得られた。またSECと同様の組織型を示し、遺伝子発現や免疫逃避プロファイルも似る卵巣漿液性癌についても局所免疫メカニズムの探索を進め、B7-H3が別のサイトカイン伝達経路を介してM2マクロファージを遊走させ免疫逃避機構を発揮することを見出し、論文報告した(Cancer Immunol Res.)。2022年度も引き続き腫瘍局所免疫メカニズムの探索を進め、腫瘍と間質の間には種々のサイトカインクロストークが存在し、漿液性腺癌細胞はMDSCやM2マクロファージを誘導して抗腫瘍免疫から逃避する機構を確立していることを明らかにし、論文報告した(Carcinogenesis)。また卵巣漿液性癌ではCXCL13を分泌するCD4+ T細胞が免疫シグナル管理基地としてのtertiary lymphoid structures(TLS)に集簇することで免疫逃避状態から免れ、TLSが見られる症例では予後が良いこと、精製CXCL13の投与が予後改善をもたらす可能性について論文報告した(JCI Insight.)。今後も引き続き腫瘍-間質クロストークに着目し、抗腫瘍免疫の標的経路を探索する。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画は、①腫瘍微小環境下の抗腫瘍免疫作用を制御する腫瘍-間質クロストークの解明、②悪性度の高いSECの病態に即した実効性の高い生体内治療法の探索、③宿主体内環境の変化に応じた生体内治療効果の評価、からなる。①については上述した通り、MDSCがSEC腫瘍局所で抗腫瘍免疫寛容状態を惹起させる因子としてCCL7を同定し、その機能解析にてCCL7が濃度依存的にMDSCの遊走を促すことを解明し英文論文報告した。表現型が近似している卵巣漿液性癌についても検討を行い、B7-H3やCXCL13分泌を介して抗腫瘍免疫状態が制御されていることを英文論文報告してきた。TLSと腫瘍内B細胞浸潤は子宮体癌でも予後良好因子であることも解明し、腫瘍局所での免疫活性の意義について再現性を持って示してきた。②については、MDSCを除去する治療として抗Gr-1抗体投与の効果を担癌マウスモデルで示したが、現時点でのヒト生体内投与は困難であり、MDSC駆除治療の可能性について引き続き探索する。また、子宮体癌でもTLSが予後良好因子であったことから精製CXCL13の投与がTLSを誘導して治療効果を高める可能性について、SECモデルでの検証準備を進めている。③近年、生体内の細菌叢の乱れを伴う患者では薬物治療効果が乏しいことが示されていることから、患者腟内環境の探索を進めている。すでに成人正常対照として複数のサンプルを採取し、マイクロバイオームのハイスループット解析を開始した。それぞれの研究計画について当初の成果が得られ、次の展開を迎えている部分もあるが、も長いコロナ禍で、各研究でオンサイトの実験に制限が出ており、進捗は道半ばである。学会等で知見を交換することで今後は研究ペースを上げられるようにしたい。
2022年度までの研究計画とこれまでに得られた研究成果を融合させて2023年度の研究を進める。研究計画については柔軟に調整を加える予定としている。①腫瘍微小環境下の抗腫瘍免疫作用を制御する腫瘍-間質クロストークの解明:昨年はヒト子宮体癌でもTLSが良好なPFSに関連することを明らかとしたが、TLSの存在と組織型との関連性は得られなかった。SEC担癌マウス内でのB細胞の動きを検討することで免疫シグナル管理基地としてのTLSの機能について解析を進める。②悪性度の高いSECの病態に即した実効性の高い生体内治療法の探索:①とも関連するが、SEC担癌マウスに精製CXCL13を投与することでサイトカインシグナルや腫瘍のエピゲノムに変化が生じるか、またMDSCやCTLの集積に変化があるか局所腫瘍解析を行い検証する。③宿主体内環境の変化に応じた生体内治療効果の評価:術後加療後に再発を来した子宮体癌患者について腟内からマイクロバイオームサンプルを収集しハイスループット解析に供する。薬物療法の効果の違いによりマイクロバイオームに差があるか後方視的に検討する。
購入を予定していた物品の欠品や納期の遅れあり、購入を延期せざるをえなかった。今後、それらの購入と併せて解析データを増やすため解析用消耗品や記録用メディアを購入予定である。
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