当初唾液からのリキッドバイオプシーによる予後層別化を図っていたが、COVID-19のパンデミックに伴い正常人ならびに患者の唾液検体を集積することが困難になったため、対象を口腔がんの予後層別化ならびに病態把握に切り替えて研究を行った。 C-CATならびにMSK-Impactの遺伝子変異および臨床的データにアクセスすることができ、解析を進めたところこれまであまり注目されていなかったTERTプロモーターのC250T およびC228T変異が口腔がんに非常に特異的に変異を認めることを見出した。さらにこの変異を有する症例は若年、飲酒、喫煙量が少なく、女性に多いといった特徴を有していることが明らかになった。このため、これまで大きな謎であった「若年女性に生じる舌癌」という集団の病態生理に迫る知見と考え、TERTプロモーター変異を有する症例の共変異について検索した。その結果、TP53、CASP8、HRAS、CD274の変異/増幅を伴うことも明らかになり、これまでの頭頸部扁平上皮癌とは変異プロファイルの点からも特異的な集団と考えられた。 さらに東大病院耳鼻科で経験した口腔がん40症例に対してTERTプロモーター変異を凍結切片から抽出したDNAに対してデジタルPCRを行ったところ、実に20例がTERTプロモーター変異陽性であり、陽性症例は飲酒、喫煙歴が少ないというデータベースからの知見を裏付ける結果であった。さらにTERTプロモータ変異陽性症例はC250T変異は高齢者に多く再発もみとめず予後良好である一方でC228T変異は若年者に多く、原発再発がおおく予後不良であることも見出された。 このようにTERTプロモーター変異陽性口腔がんは頭頸部扁平上皮癌のうち独特のetiologyを有する症例である可能性を示唆された。
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