甲状腺高分化癌は非常に予後良好であるのに対し、未分化癌は罹患率が2%未満、1年生存率は5-20%以下の極めて予後不良なorphan diseaseである。高分化癌から脱分化して生じると考えられているが、その機序は不明である。本研究では「高分化癌が未分化形質を獲得する機序の解明」を目的とし、同一腫瘍検体の高分化部位と未分化部位の遺伝子発現の網羅的解析、細胞株を用いた未分化形質獲得解析により、脱分化を誘導する遺伝子を明確にする。 昨年度までに高分化癌(乳頭癌)から未分化転化した患者検体(FFPE)を用いて、高分化部位と未分化部位の遺伝子発現解析(RNA-seq)を行ったところ、未分化転化には上皮間葉転換(EMT)が関与していることがわかった。また、未分化形質獲得の機序に関わる可能性が高い候補因子として、FOXD1に着目した。甲状腺癌細胞株(KTC-1、OCUT-1C、OCUT-1F)を用いた実験から、FOXD1がEMTに関与していることが明らかとなり、またEMT関連転写因子として知られるSNAI1やSNAI2と協調的に働く可能性を見出した。 本年度はFOXD1の発現調節について調べたところ、甲状腺未分化癌でのFOXD1の高発現がプロモーター領域の脱メチル化による可能性を見出した。現在定量的解析を試みている。また、以前から作製しているCRISPR/Cas9ゲノム編集技術によるFOXD1のノックアウト細胞株を樹立した。得られた細胞株を用いて、これまで得られたデータについて検証を行っている。
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