内耳感覚上皮幹細胞のマーカーとして、昨年度まで行ってきたLGR5に加え新たにSOX2を候補とした。SOX2は内耳発生の初期段階における幹細胞特性を持つことが知られており、内耳オルガノイドへの誘導効率を向上させる可能性があると考えた。SOX2をラベルしたヒトES細胞株を用いて、その内耳オルガノイドへの誘導効率を評価した。その結果、従来のマーカーよりも高い蛍光陽性率が得られました。FACSソーティング技術を用いてSOX2陽性細胞を分取した。これらの細胞を単離培養し、内耳オルガノイドへの再誘導実験を行った。得られた内耳オルガノイドの機能解析を行い、感覚上皮細胞としての特性を詳細に評価した。免疫染色およびqPCR解析を用いて、内耳感覚上皮特異的な遺伝子発現を確認した。ES細胞から作成したオルガノイドと同様に、耳胞様の構造をなす細胞群の中にMyosin VIやPCP4といった幼若な内耳有毛細胞のマーカーは発現が確認できたが、Myosin VIIaやPou4F3といった機能的に成熟した有毛細胞を確認することができなかった。恐らくはオルガノイドから細胞を単離する過程もしくはFACSソーティングの過程で機械的な刺激が加わることにより、組織幹細胞としての性質に何らかの修飾が加わり形質が変化した可能性が考えられた。今後は細胞単離の行程を改変することによって、より効率的に組織幹細胞を分取できる培養プロトコルの確立を目指す。また、得られた細胞を用いて動物モデルへの移植実験を行い、内耳機能の回復を目指した研究を進める予定である。
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