研究課題
我々はこれまでに、加齢性難聴を発症するマウスC57BL/6J(B6J)系統の12番染色体のセントロメア側約10 Mbの領域のみを加齢性難聴を発症しないマウスMSM/Ms(MSM)系統の相同領域に置換したコンジェニックマウスにおいては、加齢性難聴の発症が遅延することを報告した。この領域には、これまでに36個の遺伝子が認められている。そこで、その効果を持つ遺伝子を同定するため、理化学研究所に整備されているMSM系統のBACクローンライブラリから、12番染色体のセントロメア側約10 Mbの領域の一部が導入されているBACクローンを2種類用意し、それぞれをB6J系統に導入し、トランスジェニック(Tg)マウスを2系統樹立した。1つ目のTgマウス系統では、F2オスを49個体樹立し、そのうち43個体は4ヶ月齢まで、41個体は8ヶ月齢まで、18個体は12ヶ月齢まで聴力測定を完了した。また、4ヶ月齢の聴力測定後にF2個体の遺伝子タイピングを実施し、遺伝子タイプ間でその聴力を比較した結果、BACクローンが導入されていないタイプ(non-Tg)とB6J系統間で聴力に差は認められなかった。一方、BACクローンが片方の染色体にのみ導入されているタイプ(Tg-hemi)は、non-Tgと比較して4ヶ月齢では高音域(32 kHz)、8ヶ月齢では中~高音域(16~32 kHz)において加齢性難聴の発症遅延が認められた。2つ目のTgマウス系統は、現在までに10個体のF2オスを確保し、聴力測定は今後実施する予定である。1つ目のTgマウス系統で、Tg-hemiタイプの加齢性難聴発症が抑制されていたことから、導入されたBACクローン内に発症抑制機能を持つ遺伝子があると考え、ゲノム編集により候補遺伝子の1つをノックアウト(KO)したコンジェニックマウス系統の樹立に成功した。
3: やや遅れている
Tgマウスの樹立が遅れたことにより、2系統樹立したうちの1系統の聴力測定スケジュールが遅延した。また、経時的に聴力を測定しているF2個体のうち、BACクローンが両方の染色体に導入されているタイプが産まれてくる割合が少なく、必要な個体数を確保できていないため。
樹立したTgマウス系統のF2オスの経時聴力評価は、2023年度も引き続きABR閾値およびDPOAEレベルの測定により実施する。これまでの調査からは、12ヶ月齢でもTg-hemiタイプでは加齢性難聴の発症が抑制されている可能性が示唆されているため、導入されたBACの効果を検証するために16ヶ月齢までは聴力測定を実施する予定である。また、16ヶ月齢でも差が認められる場合は、さらに測定期間を延長する予定である。同時に、今回樹立したKOマウスの聴力についても、経時的な測定を実施し、ターゲットとした遺伝子の聴覚への効果を調査する。それと同時に、野生型マウスとKOマウスの内耳有毛細胞の表現型および内耳でのmRNAおよびタンパク質発現についての調査を実施する。さらに、BACクローン内に含まれていた他の候補遺伝子についても、ゲノム編集によるKOマウスの樹立を目指す。
Tgマウスの樹立が遅れたことによりマウスの飼育費が減ったため。次年度は、この費用を現在聴力測定用に繁殖させているTgマウスの飼育費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Biomedicines
巻: 10 ページ: 2221
10.3390/ biomedicines10092221
https://www.igakuken.or.jp/mammal/