研究課題/領域番号 |
21K09646
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
松原 篤 弘前大学, 医学研究科, 教授 (10260407)
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研究分担者 |
工藤 直美 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (30770143)
高畑 淳子 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (60568898)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アレルギー性鼻炎 / マイクロバイオーム / 多様性 / 構成異常 |
研究実績の概要 |
アレルギー性鼻炎や上気道の難治性好酸球性炎症性(好酸球性中耳炎・副鼻腔炎)は、近年になり増加の一途にあり、その原因を探り対応策を講じることは急務と考えられる。アレルギー増加の原因には、スギ花粉症の増加などの外因が重要であるが、衛生仮説の概念から腸内環境すなわち腸内細菌叢の異常が関与することが徐々に明らかになりつつある。腸内細菌叢の異常として、多様性(Diversity)が低下することにより。腸内細菌叢の構成異常(Dysbiosis)と疾患の関連を検討することが重要である。 申請者らは、青森県弘前市岩木地区の一般地域住民を対象とした疫学調査(岩木健康増進プロジェクト健診)において、便サンプルから細菌のDNAを抽出し、次世代シークエンサーによる網羅的解析により明らかにされた腸内細菌叢の構成と、主要な吸入性抗原感作の関連について検討を進めてきた。今回は、特に主な吸入性抗原(JCP、HD1、イネ科-マルチ、雑草-マルチ)感作の状況ならびに鼻炎症状の発症と腸内細菌叢構成・多様性との関係性について詳細な解析を行った。その結果、いずれかの抗原に感作された群では未感作群と比較して、腸内細菌叢におけるα多様性(個体内での均等性)が低下し、β多様性(個体間での種類似性)が異なっていた。一方、発症の有無で分けた検討では、いずれの多様性指標でも有意差を認めなかった。また、各細菌の占有率の比較では感作群と未感作群においてLactobacillales、Bacteroidalesの占有率の差が認められ、腸内細菌叢の構成異常が抗原感作に関与することが示唆されたが、こちらの解析でも感作群における発症と未発症では明らかな構成異常を指摘することは出来なかった。 以上より腸内細菌の多様性や構成異常はアレルギーのinduction phaseへの関与が大きいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸入性抗原感作ならびに鼻炎症状の発症と、腸内細菌叢構成・多様性との関係性については、2021年9月に開催された第60回日本鼻科学会にて、研究協力者である大学院生の山口大夢が「主な吸入性抗原感作に関わる腸内細菌叢構成および多様性の検討」のタイトルにて、腸内細菌叢はアレルギーの発症よりは感作に関与することを報告し、現在英文原著として投稿準備中である。この結果の一部は、2021年10月に開催された第70回日本アレルギー学会にて申請者が教育講演「アレルギー性鼻炎と腸内細菌の関連」において紹介を行った。また、2022年4月に開催予定の第2回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会においては、本研究に携わってきた野村彩美医師が、シンポジウム「アレルギー性鼻炎とマイクロバイオーム」にてシンポジストに指名され口演を行う予定ある。このように、アレルギー性鼻炎と腸内細菌叢の解析は順調に進行している。 好酸球性中耳炎のマイクロバイオーム研究に関しては、症例数の関係もあり現在は筑波大学耳鼻咽喉科と共同研究を行い、外耳ならびに鼻腔の細菌叢と好酸球性中耳炎の関連について検討をすすめており、近日に結果を公表し英文原著として投稿する予定としている。また、動物実験として我々がこれまで行ってきた卵白アルブミンによるモデル動物作成ではなく、より臨床に近いモデル動物の作成法の確立を目指して実験を遂行しており、成果が期待されるところである。 以上のように、疫学的検討ならびに動物モデルを用いた基礎研究の側面から本課題の成果が得られつつあり、進捗状況はおむね順調と判断している
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今後の研究の推進方策 |
アレルギー性鼻炎のマイクロバイオーム解析として、腸内細菌叢だけでなく口腔の細菌叢に関しても検討を進める。具体的には、これまでの腸内細菌叢解析と同様に、岩木健康増進プロジェクト健診における唾液サンプルを次世代シークエンサーによる網羅的解析により明らかにされた口腔細菌叢のデータを用いて、アレルギーの感作と発症に腸内細菌叢と口腔細菌叢がどのように関与しているかについて解析する。 好酸球性副鼻腔炎に関する検討については、われわれの講座の一般外来に通院しており、研究参加の同意が得られた者をエントリーして対象者とする。具体的には、好酸球性副鼻腔炎診断基準であるJESRECスコアに該当し、生検ならびに手術で得られた検体から、好酸球性副鼻腔炎の確定診断となった対象者の腸内細菌叢、口腔細菌叢のマイクロバイオームを網羅的に解析する。腸内細菌叢は年齢によって変化することが知られているおり、われわれがこれまで解析してきた岩木健康増進プロジェクト健診のデータの中から、同年齢層のものを正常対象者として選択して、エントリーされた患者と比較して統計学的な解析を行う。 動物実験としては、われわれの施設で行ってきた中耳の好酸球性炎症モデルの作成法を改変し、新たな好酸球性炎症モデルの作成法を確立する。これまでは、抗原として卵白アルブミンを使用して来たが、自然免疫系をより賦活するパパインによる中耳粘膜をすることにより、より臨床に近いモデル動物の作成法を確立し、病態と深く関わる各種サイトカインや、制御性T細胞(Treg)、自然リンパ球(ILC2)など免疫担当細胞を解析する。続いて、腸内細菌叢に介入したモデル動物を作成し、腸内マイクロバイオームと免疫系の関連を明らかにすることを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文料に使用予定であったが、まだ完成していないため、次年度に使用予定である。
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