研究課題/領域番号 |
21K09648
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
鈴木 真輔 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (90312701)
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研究分担者 |
川嵜 洋平 秋田大学, 医学部附属病院, 講師 (00644072)
登米 慧 秋田大学, 医学部附属病院, 助教 (20816045) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 頭頸部癌 / CD147 / 微小環境 / 炎症 |
研究実績の概要 |
近年、頭頸部癌治療に免疫チェックポイント(PD-1/PD-L1)阻害薬が導入され大きなインパクトを与えているが、治療に抵抗性を示す症例も多い。最近、この抵抗性を解く鍵として腫瘍を取り巻く炎症環境が注目されている。特にIL-6をはじめとした炎症性サイトカインは癌細胞の活性化のみならず、腫瘍免疫応答に関与しており、これらの併用阻害によって抗PD-1抗体による治療効果が相乗的に増強することが報告されている。我々はこれまで細胞膜タンパク質であるCD147の癌進展への関与を研究し、CD147の発現が頭頸部癌の転移に強く関連することを臨床サンプルによる検討で明らかとした。また、炎症反応において主要な役割を持つS100A9とCD147の結合が頭頸部癌細胞の遊走能を亢進させることを確認している。また、CD147を中心とした頭頸部癌と炎症性微小環境のメカニズムの解明に取り組み、炎症に関連するとされるケモカインであるCXCL12 (stromal cell-derived factor 1:SDF-1)とその受容 体であるCXCR4の相互作用が、頭頸部扁平上皮癌細の遊走能と浸潤能を誘導することを確認した。またこれらの癌進展能の亢進にCD147によって誘導されるMEKを 介した細胞内シグナル伝達経路が介在していることを確認し、SDF-1/CXCR4軸により誘導される頭頸部癌進展の機序を解明した。一方、炎症性微小環境と腫瘍免 疫応答の関係性はいまだ明らかとされていない。本研究はこれまで、放射線によって線維芽細胞から誘導されるIL-6が頭頸部癌細胞遊走能亢進に関与していることを確認し、放射線治療後の再発・転移に炎症性環境が関与している可能性を示唆した。また、再発・転移頭頸部癌患者の血中における好酸球/好中球比が免疫チェックポイント阻害薬の効果に関係することを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
放射線は頭頸部癌に対する主要な治療手段であり、広く活用される。しかし、放射線治療後の再発・転移はしばしば経験され、時に急速な進行により対応に難渋することがある。治療の改善のためには、放射線治療後に生じる腫瘍を取り巻く微小環境の変化を解明し、これに基いた対応を取る必要がある。本研究の結果は、放射線治療を受けた頭頸部腫瘍組織では、癌細胞周囲の線維芽細胞がみずから分泌するIL-6を介して、頭頸部癌細胞の進展を促進する可能性を示唆している。IL-6は炎症環境における主要なサイトカインであり、炎症性微小環境と頭頸部癌進展の関与を示し、今後の研究展開の基礎となる背景を提示している。しかし、いまだCD147とIL-6をはじめとした炎症環境との関連性が確認できておらず、研究発展のための解析が急がれる。また、本研究では血中の好酸球/好中球比が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に関与することが確認されているが、今後は好酸球と炎症反応との関連性、および主要な炎症関連因子であるIL-6などと免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に関する検討も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
CD147と炎症性微小環境との関連性、および分子機構の解明を進めるため、分子生物学的手法を用いた解析を進める。同時に、頭頸部癌細胞およびこれに関わる腫瘍免疫応答関連因子とCD147との関連性について解析を行う。これらの結果から、炎症環境における頭頸部癌進展とCD147およびPD-1/PD-L1を軸とする腫瘍免疫応答の相互作用を明らかとする。また、頭頸部癌患者の血清中における炎症関連因子と、腫瘍進行度や薬剤有効性、予後などの臨床因子との相関について検討を行う。この臨床的解析により得られた結果と、基礎的解析から得られた結果との整合性を検討し、頭頸部癌治療効果改善につながる標的因子を検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験遂行にあたり条件の設定に時間を要したため、研究の進捗に遅れが生じた。またCovid-19感染拡大のため、他研究施設との共同研究作業に遅延が生じた。
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