研究課題/領域番号 |
21K09668
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加瀬 諭 北海道大学, 大学病院, 講師 (60374394)
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研究分担者 |
神田 敦宏 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (80342707) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | αBークリスタリン / ミュラー細胞 / アポトーシス / インターロイキン1ーβ |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症病態における網膜ミュラー細胞におけるsmall heat shockタンパクのαBークリスタリンの役割を検討するため、in vitroとin vivoの解析を行ってきた。培養ヒト網膜ミュラー細胞を用いて、高血糖刺激を行うと、細胞内のαBークリスタリンの遺伝子発現は低下した。一方で細胞内のαBークリスタリンタンパクの発現に変化はなかった。次に、ヒトの糖尿病網膜症における硝子体液で発現が上昇することが知られているサイトカインを検索すると、インターロイキン1-beta (IL-1β)、TNFαが主要なサイトカインであることが判明し、これらを培養ミュラー細胞へ添加した。するとIL-1β添加によりミュラー細胞においてαBークリスタリンのセリン59リン酸化が誘導されたが、TNFα添加ではそれは見られなかった。IL-1βとともにIL-1β受容体に対する抗体を添加すると、αBークリスタリンのリン酸化は見られなかった。さらに我々は、IL-1βによるαBークリスタリンを介した網膜ミュラー細胞のアポトーシス回避について検討した。IL-1β刺激下において、αBークリスタリンのsiRNAをトランスフェクションを行うと、培養網膜ミュラー細胞におけるTUNEL陽性細胞が優位に増加することが判明した。以上より、αBークリスタリンは、IL-1β刺激下においてそのリン酸化を介して、αBークリスタリンの放出を抑制し、アポトーシス回避に貢献する可能性が示唆された。糖尿病モデルマウスであるSDT fatty ラットによる免疫組織化学的検討では、網膜ミュラー細胞にαBークリスタリンのセリン59リン酸化が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養網膜ミュラー細胞を用いて、IL-1β刺激によりαBークリスタリンのリン酸化が起こること、αBークリスタリンのsiRNAトランスフェクションが機能しており、アポトーシスの解析に貢献したことが大きな進捗でした。加えて、糖尿病モデルマウスにおいても、GFAP-陽性のミュラー細胞にαBークリスタリンのリン酸化が確認できたことは、研究が概ね順調に進展していることを示唆していると思われます。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト増殖糖尿病網膜症の硝子体手術の際に採取された網膜の増殖組織を収集し、αBークリスタリンのリン酸化が浸潤するミュラー細胞に見られるか、評価し確認します。培養細胞の実験では、IL-1β刺激下において、αBークリスタリンのsiRNA、スクランブルsiRNAのトランスフェクションにより、アポトーシスの別の証明であるカスパーゼ3/7の変化があるか、ELISA法、Western blotなどで確認する予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:本年度は培養ヒト網膜ミュラー細胞を用いたin vitro実験を行い、ヒトの糖尿病網膜症における硝子体液で発現が上昇することが知られているサイトカインの添加によりαBークリスタリンの発現量やリン酸化に変化が見られるか、サイトカイン刺激によるαBークリスタリンの変化が網膜ミュラー細胞の機能にどのような影響を与えるかについて検討を行いましたが、順調に研究が進み予定よりも低額の研究費で計画遂行が可能であったためです。
使用計画:令和5年度に計画している、ヒト増殖糖尿病網膜症の硝子体手術の際に採取された網膜の増殖組織を用いた検討、および、培養細胞を用いたIL-1β刺激下のαBークリスタリンのアポトーシス抑制作用の検討に使用する予定です。
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