研究課題
前房環境は眼圧上昇に寄与することが考えられる。これまで線維柱帯組織を手術の際に採取することで前房水、虹彩等相互の関連性を解析し、その眼圧上昇メカニズムを包括的に解明することを目的として取り組んできた。しかし、手術器具の形状の改訂、高いコスト等、安定して線維柱帯組織を採取することがこれまでの取り組みで困難であることがわかった。そのため本年度は狭義原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、落屑緑内障の患者から手術時に採取した前房水をサンプルとし、リピドーム解析による脂質代謝物の違いについて解析した。解析する検体は年齢性別が調整された各群8症例を用いた。まず、前房水中に存在する細胞外小胞をアフィニティ反応後に抽出し、UHPLC-FTMSにより分析し、LipidSearchによる脂質代謝物の化合物同定とMetaboAnalyst 5.0による統計解析を実施した。前房水由来の細胞外小胞リピドーム解析の結果、4,500成分以上の脂質分子種が検出された。3群間比較における主成分分析の結果、スコアプロット上で正常眼圧緑内障は狭義原発開放隅角緑内障および落屑緑内障と比較して異なる位置に分布した。さらに、狭義原発開放隅角緑内障や落屑緑内障において、正常眼圧緑内障に比較して低下している脂質分子種が複数検出された。一般的に正常眼圧緑内障は狭義原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に比べ眼圧は低い。本結果は、眼圧に寄与する脂質分子種の存在を示唆するものである。