網膜色素変性は、本邦での中途失明原因の第2位の遺伝性神経変性疾患である。本研究の目的は、ゲノム編集を用いて、網膜色素変性症の病因となる遺伝子変異をより効率的に修復できる遺伝子治療の技術を開発することである。申請者らが作製に成功したall-in-oneゲノム編集遺伝子治療アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全盲網膜変性マウスを対象とした遺伝子治療を行い、ゲノムの修復と視力の回復の程度について検証し、より効果的な治療法を決定する。具体的には、①投与することでゲノム編集効率を促進する薬剤の開発、②編集効率を向上させるためにドナー配列を最適化したベクターの開発、③網膜変性マウスモデルを用いた治療効果の評価の3つのステップで実験をすすめる。 ①培養細胞を用いて、薬剤投与により編集効率が向上することを確認した。 ②編集効率を向上させるためにドナー配列を最適化したベクターの開発を行った。マイクロホモロジーアームの長さについて培養細胞を用いて検討し、ゲノム解析とmRNA解析により、最適な長さのマイクロホモロジーアームを決定した。その過程で新しいゲノム編集治療ベクターの開発にも成功した。 ③研究の過程で発見した新しいゲノム編集治療治療の検証を行った。まずは、対象変異を導入した培養細胞株を構築し、従来より高い編集効果が得られることを確認した。続いて、網膜変性マウスモデルを用いて、in vivoゲノム編集治療を行い網膜感度が1万倍改善することを明らかにした。 今後は、さらに検証を行い臨床ベクターの開発に移行する計画である。本研究により、効率的なゲノム修復ができるようになった場合、治療不可能であった遺伝子変異に対する治療が可能となる。さらに、開発した遺伝子治療法は、網膜色素変性症だけではなく、他の遺伝性網膜疾患や網膜以外の遺伝性疾患の治療にも応用できるものである。
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