研究課題/領域番号 |
21K09675
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 誠 神戸大学, 医学研究科, 教授 (80273788)
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研究分担者 |
楠原 仙太郎 神戸大学, 医学研究科, 講師 (40437463)
栗本 拓治 神戸大学, 医学研究科, 助教 (50388815) [辞退]
上田 香織 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (70792232)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 網膜神経節細胞 / 緑内障 / アストロサイト / アクアポリン / 乳酸 / モノカルボン酸輸送体 / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
高眼圧モデルマウスを作成し、眼圧上昇4週後の網膜と対照の網膜を採取して、メタボローム解析を行った。多くの有為な代謝物変動が見られたが、高眼圧網膜ではグルコースとグルタミン酸の有意な上昇が見られた。乳酸はグルコースよりも10倍以上の高濃度であったが、眼圧上昇の影響は受けなかった。また高眼圧モデルマウスでは、網膜神経節細胞密度は有意に減少するとともに、アクアポリン(AQP)9とモノカルボン酸輸送体(MCT)2発現量が低下していた。Aqp9 ノックアウト(KO)マウスでは、正常眼圧下では野生型よりもMCT2発現が亢進し、高眼圧でその発現量はさらに増加した。 白内障患者と緑内障患者各60名ずつの血清と房水の乳酸、ピルビン酸の濃度を測定し、比較した。両群間で両代謝物の平均濃度に差はなかった。しかしながら、白内障群では、年齢やbody mass index (BMI)と血清乳酸に相関はなかったが、緑内障群ではBMIと血清乳酸濃度に有意な相関があった。また房水乳酸は屈折と年齢と正の相関がみられた。高血圧、耐糖能異常、異常BMI、高度近視群を除いた緑内障16例、白内障22例では房水乳酸濃度が有意に高かった。 正常眼圧緑内障(NTG)患者306例と健常者1047例の一塩基多型(SNP)の関連解析と相互作用解析を行った。その結果、関連解析では、グルコース輸送体(GLUT1)の二つのSNP、WNT7Aの一つのSNPでは有意な相関がみられた。一方、SNP相互作用解析では、MCT2の一つのSNPとGLUT4の一つのSNPの組み合わせがNTGに対して保護的に、LDHA, C, L6Aの一つのSNPとLDKDの一つのSNPの組み合わせがNTGの発症リスク上昇に関連していた。 以上の結果は、緑内障では全身ならびに眼局所の糖代謝障害が生じており、このことが網膜神経節細胞死に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多機関共同研究も順調にデータ固定、解析が進んでいる。動物実験も概ね予定通りの解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
糖代謝障害と緑内障性視神経症の関連が判明してきたので、まずは、これらの知見を論文化するとともに、治療を視野に入れた研究を進めていく必要がある。頭部外傷患者では高濃度乳酸投与が神経保護的に働くことが報告されいるので、動物実験で、乳酸投与が視神経損傷モデルで網膜神経節細胞に対する保護効果を発揮するかを検証する。また視神経障害においてはミクログリア活性が増加することが知られているので、二光子顕微鏡を用いたin vivoでの乳酸投与のミクログリア活性への影響を観察する。さらに糖代謝改善薬であるメトフォルミンは多面的な機能を有し、疫学調査ではメトフォルミン内服糖尿病患者は有意に緑内障発症の割合が少なかったことが報告されているので、メトフォルミンの高眼圧や視神経挫滅モデルでの保護効果を有するかを検証し、ひいては人に対する臨床試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスパンデミックの影響で国内外学会や会議への対面参加を取りやめ、オンライン発表や会議としたため、旅費の使用が当初より縮減された。次年度は新型コロナウイルスも第5類に移行され、反動として学会活動が活発になると予想され、また、今回の研究計画の最終年度となるため、一層学会報告と論文投稿が増えるため、それに充当する予定である。
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