研究課題
本研究ではぶどう膜炎や加齢黄斑変性といった眼炎症疾患におけるPGD2の関与を解明することを目的としている。今回ぶどう膜炎の動物モデルとしてラット実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)モデルを用いた。EAUモデルは6週雌齢Lewis rat day0にinterphotoreceptor retinoid binding protein(IRBP)の合成ペプチドであるペプチド(R16) 50ug/匹とComplete Freund's Adjuvant 50ug/匹を混和し、後頚部に皮下注射した。また、眼内炎症の惹起を促進するために、百日咳毒素(pertussis toxin: PTX) 1ug/匹をday0とday7に腹腔内投与した。HPGDS阻害薬(HQL-79)0.2mg/day、LPGDS阻害薬(AT-56) 0.2mg/day、Control (0.5%メチルセルロース)をそれぞれをそれぞれDay7より連日皮下注射した。溶媒として0.5%メチルセルロース溶液を用いた。HQL-79、AT-56は、それぞれ強力で選択的な経口HPGDS、LPGDS阻害剤で、PGD2の合成を高度に選択的に阻害する。AT-56、HQL-79、を投与した時のEAUスコアを測定した。また、眼球内のPGD2は眼球摘出操作で変動しやすいため、尿中PGD2代謝物(PGDM)、尿中PGE代謝物(PGEM)を液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)を用いて測定した。結果、Day15以降のEAUスコアが対照群にくらべ有意に低下していたが、ピーク時(day11~13)でのEAUスコアには有意な差は生じなかった。尿中PGDMは眼炎症時には有意に上昇していた。対照のPGEMは有意差がなかった。PGD2は眼内炎症に関しては促進的な役割を果たしているようであった。
2: おおむね順調に進展している
ラットEAUモデルでのH型、L型合成酵素の阻害薬投与することにより、ぶどう膜炎に対するPGD2の関与を検討した。HPGDS阻害薬(HQL-79)0.2mg/day、LPGDS阻害薬(AT-56) 0.2mg/day、Control (0.5%メチルセルロース)をそれぞれをそれぞれDay7より連日皮下注射した。溶媒として0.5%メチルセルロース溶液を用いた。AT-56、HQL-79、を投与した時のEAUスコアを測定した。その結果、溶媒と比べ、EAUスコアはピーク時(day11~13)では有意差はなかったものの、day15以降のEAUスコアは有意に低下していた。この結果はPGD2以外にも様々な炎症機序がEAUの発症に関与するためであると予想される。例えば、ロイコトリエンB4(LTB4)の阻害は、EAUによる網膜の構造的損傷を防ぐとともに、エフェクターTヘルパー17細胞および炎症性マクロファージを著しく減少させ、EAUの治療に有用との報告がある。また、眼炎症時と非眼炎症時の尿中PGDM、PGEMをLC-MS/MSで測定した。眼炎症時は非炎症時に比べ、尿中PGDMが増加していたが、対照のPGEMは変動しておらず、眼炎症時にはPGD2が産生されていると考えられた。
ラットEAUモデルではPGD2の合成阻害で炎症のピークは抑制できなかったものの、炎症の消退が促進していた。また、尿中代謝物の検討では、眼炎症時にはPGD2が産生していることが考えられた。ぶどう膜炎においてPGD2の産生が関与していることが示唆された。今後、マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管(CNV)モデルをもちいて、加齢黄斑変性におけるPGD2の関与に関しても検討する予定である。具体的には、LPGDS,HPGDS、DP1、DP2のノックアウトマウと野生型マウスに対して、レーザー照射しCNVの発生について検討していく予定である。
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