研究課題
本研究課題では1) 特発性ぶどう膜炎の臨床像(視力予後、眼合併症の発生頻度、治療法など)の検討、2)マイクロアレイの手法を用いて特発性ぶどう膜炎患者と健常人の血清中microRNAを比較、特に肉芽腫性と非肉芽腫に分類した場合の血清中microRNAの発現パターンの比較、さらに我が国の代表的な肉芽腫性ぶどう膜炎であるサルコイドーシス患者の血清中のmicroRNAと特発性肉芽腫性ぶどう膜炎患者血清中のmicroRNAの発現プロファイルの類似点、相違点を比較検討することを目的とした。令和3 年度は特発性ぶどう膜炎の臨床像(視力予後、眼合併症の発生頻度、治療法など)について検討し、全体の初診時平均年齢は53.6歳、炎症部位の分類では前部ぶどう膜炎と汎ぶどう膜炎で全体の約8割を占めていた。また視力経過を検討したところ、初診から1年後の視力が1.0以上だったのは全体の60%程度であり特発性ぶどう膜炎の短期的視力予後は比較的良好と考えられた。令和4 年度は特発性ぶどう膜炎と診断された症例のうち、眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例(眼サルコイドーシス疑い群)の血清を採取しmicroarrayの手法を用いてmicroRNAの発現パターンについてクラスター解析を行った。さらに眼サルコイドーシスの血清中microRNAの発現パターンと比較した。その結果、眼サルコイドーシス疑い群は健常人と比較して異なった発現パターンを示しており、さらに眼サルコイドーシス群との比較では近似した発現プロファイルを呈することを確認した。これらの結果から特発性ぶどう膜炎の中でも眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例(眼サルコイドーシス疑い群)では血清レベルにおいて眼サルコイドーシスと近似したepigeneticな変化を示していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度では悪性腫瘍などのバイオマーカーとして注目されている microRNA (miRNA)に着目し、1)健常人、2) 眼サルコイドーシス患者、3)特発性肉芽腫性ぶどう膜炎患者の中で眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例(眼サルコイドーシス疑い群)の3群における血清中miRNA の発現プロファイルについてgenechipによるマイクロアレイの手法を用いて網羅的に解析した。さらにそれらの結果から主成分解析、クラスター解析などの機械学習の手法を用いて発現パターンの類似性について検証した。その結果、1)両疾患群のmiRNA のプロファイルは健常人とは異なった発現パターンを示すこと、2) 両疾患群で比較すると、両群ともに近似した発現パターンを呈すること、3) Transforming growth factor (TGF)-beta signaling、wingless/integrated signaling pathway や酸化ストレスなどの複数の分子パスウェイについて両疾患群が共有していることを示した。4)発現変動のみられた代表的なmiRNAについて定量PCRを行いvalidationを行った。これらの結果は特発性肉芽腫性ぶどう膜炎の中で眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例では全身レベルでは眼サルコイドーシスと近似した分子プロファイルを呈することを示唆しており血清中miRNAが特発性ぶどう膜炎の新たな分類、病態理解のための新規バイオマーカーになりうることが考えられた。以上の結果から令和4年度の目標はほぼ達成されたと考える。
令和5年度は以下の2点について検討を行う。1)令和4年度に得た血清microRNAの発現パターンの結果を基に特発性肉芽腫性ぶどう膜炎の中で眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例(眼サルコイドーシス疑い)と眼サルコイドーシスとの視力の経過を含めた臨床像について比較し、両疾患群が臨床像においても近似した所見を呈するか検討する。具体的には当施設で特発性ぶどう膜炎と診断された症例のうち、眼サルコイドーシスの眼所見3項目以上を満たす症例群を眼サルコイドーシス疑いと定義し、視力予後、眼合併症の発生頻度、治療内容を含めた臨床経過について後ろ向きに解析する。さらに同一期間内に当施設で眼サルコイドーシスと診断された症例と臨床経過を比較することで眼サルコイドーシスとの臨床像の類似性について検証する。2) 特発性ぶどう膜炎を肉芽腫性と非肉芽腫に分類した場合の血清中microRNAの発現パターンを比較し、肉芽腫性と非肉芽腫の違いによる全身レベルでのepigeneticな変化の違いの有無について検討し、新しいバイオマーカーを探索する。3) 眼サルコイドーシス疑い群、および眼サルコイドーシス群で共通して発現上昇、低下のみられたmiRNAについて、ぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)を誘導し、眼局所、または血清、所属リンパ節、脾臓において発現の上昇や低下がみられるか比較することで、miRNAの視点からみたヒトぶどう膜炎との関連について検証する。
令和4年度ではマイクロアレイの手法を用いて健常人、特発性ぶどう膜炎患者(眼サルコイドーシス)、眼サルコイドーシス患者との血清中microRNAの発現パターンの比較を行った。マイクロアレイを用いたmiRNAの発現解析、クラスター解析、主成分解析、pathway解析を行うことができたが、新型コロナウイルス感染予防の観点から研究室の使用について時間的、人数的な制限を行ったため当初計画していた検体数より少ない症例数での解析となった。そのため未使用の研究費については次年度に繰り越しとなった。1)令和5年度は特発性肉芽腫性ぶどう膜炎の中で眼サルコイドーシスの眼所見を呈する症例(眼サルコイドーシス疑い)と眼サルコイドーシスとの視力の経過を含めた臨床像について比較し、両疾患の臨床像の類似性について検証する。2) 特発性ぶどう膜炎を肉芽腫性と非肉芽腫に分類した場合の血清中microRNAの発現パターンを比較し、肉芽腫性と非肉芽腫の違いによる全身レベルでのepigeneticな変化の違いの有無について検討し、新たなバイオマーカーを探索する。
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