加齢黄斑変性および網膜色素変性は中途失明原因の上位を占める網膜疾患である。これらの疾病における視覚神経回路の状態は発病時期によって異なるが、発症初期では周辺視野や対眼によって失われた視覚が補完されるために視野の異常に気付かず、患者が自覚した時点では既に病状が進行していることが多いため、早期発見と病態の経時的把握が困難である。そのため、病状が進行して視覚の異常を示す過程において、局所的な網膜変性によって視覚回路がどのように変化するかは十分に明らかにされていない。 本研究では、黄斑変性および網膜色素変性の新規病態モデルとなり得るロドプシン変異体マウスの準備を行った。このマウスは加齢に伴って視野領域特異的にロドプシンが変異し、視細胞層の形態異常を示す。今後、これらの変異マウスを用いて経時的に網膜視細胞層の形態観察を行うとともに、免疫組織化学法を用いて変異ロドプシンタンパク質の局在や視機能の評価、遺伝子発現パターンの解析、さらに網膜から脳へ至る神経回路の変化を明らかにすることで、ヒトでは検証困難な、視野中心部・視野周辺部を担う脳視覚野回路を解明し、網膜疾患における視覚障害の進行過程と視覚回路の変化を明らかにできる。それによって得られた知見から、iPS細胞による重度の加齢黄斑変性症、網膜色素変性症の治療をはじめとしたあらゆる眼疾患の治療において、視覚神経回路の面から視覚再建への道筋を示すことが期待される。
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