研究課題
視細胞変性は、そのオンセットと進展に網膜内の炎症が深く関わることが示唆されている。我々は、マイクログリアに着目しその視細胞変性における役割を検討するために、誘導的/特異的にマイクログリアにv-Rasを発現することが可能なマウスを作成した。これまでのv-Rasで同様に活性化されているマイクログリアの状態が網膜内の位置によって変わることから、網膜内の微少な環境がマイクログリアの活性化状態に影響を与えていると言う仮説を立てた。網膜内の局所特異的なタンパク発現を明らかにするために、網膜の特定の領域をレーザーマイクロダイセクション(LMD)で切り出し、LC-MSによるタンパク質の同定を行い、病態の時間軸の進展におけるサイトカイン類の状態のダイナミズムについて4次元的に把握し、そこに不均一性があるのかどうかを検討することを第一の目的とし、LMDで網膜を切り出し、LC-MS でタンパク質の同定を行う手法で、網膜内の局所におけるタンパク質の発現パターンを解析することに成功した。これまで網膜をセルソーターで細胞種ごとに分離し、RNAseqで解析することを行ってきたが、プロセスを伸ばした網膜細胞が、タンパク質をどこで発現しているのか、という空間的情報を得る第一のステップであると考えている。正常状態、炎症初期における発現状態の違いについても解析が可能になった。一方で、マイクログリア、ミューラーグリア、神経細胞との相互作用について明らかにすることも本研究の課題であり、これらの細胞に加え血管系の細胞の変性網膜の病態進展の時間軸における状態について、検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
LMDで網膜を切り出し、LC-MS でタンパク質の同定を行う手法による解析を昨年度の前半に行なった結果、感度はさらに上がり数千のタンパク質の同定が可能になり、炎症関連の様々な分子の同定に至ったが、サイトカインなどの分泌タンパクは同定できず、さらに感度を上げることが必要であることが示唆された。そこでLMDではなく、凍結切片を網膜に対して水平面で切り出し、タンパク同定することに手法を変えて、PCRレベルではうまく分離可能で、かつLMDよりはるかに多量の組織を分離できることが明らかになった。一方で、網膜内でマイクログリアと相互作用する可能性のある細胞としてアストロサイト、血管内皮細胞/ペリサイトに着目し、これらの細胞の挙動を様々な網膜変性モデルでwhole mountでの染色で検討し、定量化を進めている。
今年度は、新しい手法で分離した網膜についてのLC-MSに夜タンパク質同定の結果をなるべく早く得て、この中から特定の分子に着目し、これを網膜培養系、in vivoの網膜などで遺伝子レベルの増強/減弱を行い、その影響を検討する。また、アストロサイト、マイクログリア、血管内皮細胞について、共培養系を用いて、その相互作用を明らかにしていく。
今年度は研究室が本格的に東大本郷キャンパスに移転したこともあり、顕微鏡、LMD, LC-MSなどが共同利用施設、より近くなった共同研究先の施設などの利用により、予想よりはるかに予算を使わずに解析を進めることが可能となった。また、マウスを飼育する環境も飼育費用が不要になったため、予算の削減となった。一方で、次年度は、アストロサイト、血管内皮細胞について、新たな細胞株、iPS細胞の分化系等の購入、維持にお金のかかる系を早期から立ち上げるため、本年度分の予算をこれに当てることを計画している。
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巻: in press ページ: 未定
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