研究課題/領域番号 |
21K09703
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井上 俊洋 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (00317025)
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研究分担者 |
井上 みゆき 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 研究員 (20631766)
藤本 智和 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (50756426)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 緑内障 / 創傷治癒 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
ウサギを用いたマイトマイシンC併用濾過手術モデルにおいて、術後3時間、3日、14日で濾過胞組織を採取し、RNAシークエンスを行った結果、HDAC5やKDM6Bなど、多くのエピゲノム関連因子が動いていることがわかった。これに加えて、早期に変動が大きかった分子はIL-6であった。同じIL-6ファミリーであるオンコスタチンMおよびそれらのレセプター、1型コラーゲンも早期に発現上昇する因子であった。一方で、TGF-beta、alpha-SMA、4型コラーゲン、ファイブロネクチンは後期に発現上昇していた(Watanabe-Kitamura, et al., Exp Eye Res, 2021)。培養結膜線維芽細胞を用いた実験で、IL-6とオンコスタチンMはフィブロネクチンを除く後期発現因子の発現を抑制することが示され、創傷治癒における炎症期から増殖期への遷移をコントロールすることに、手術成績を改善させるカギがあるのではないかと考えるに至った。マイトマイシンCは線維芽細胞の増殖を抑える一方で、炎症性サイトカインの発現を上昇させることが分かっている。この効果は細胞実験で数十日、臨床症例では年余におよぶ。これらの結果から、われわれはこのマイトマイシンCの作用が線維芽細胞のエピゲノムに影響を及ぼし、術後創傷治癒をコントロールしていると仮説を立てた。現在は、マイトマイシンCを併用しない濾過手術モデルと併用したモデルで遺伝子発現を網羅的に比較解析し、発現変化に有意差のあるエピゲノム因子を絞り込みつつあるところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウサギを用いた濾過手術の動物モデルにおいて、RNAシークエンスデータ解析を行い、ターゲット分子を絞り込むことができた。また、培養細胞を用いたモデルでも同様にRNAシークエンスデータを取得し、臨床で手術に併用するマイトマイシンCの作用を検証することが重要と方向づけることができた。マイトマイシンCの有無による網羅的遺伝子発現の比較解析にもすでに着手しており、1年目としては順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
マイトマイシンCを併用しない濾過手術モデルと併用したモデルで遺伝子発現を網羅的に比較解析し、発現変化に有意差のあるエピゲノム因子を同定する。マイトマイシンCとこのエピゲノム因子の関連について、ChIPシークエンスを用いてその下流となる遺伝子群を検証する。さらに、siRNAや阻害剤を用いてこのエピゲノム因子を阻害し、下流遺伝子発現、細胞増殖、および細胞外マトリックス発現に変化があるか検証する。また、濾過手術の動物モデルにおいて、シングルセルRNAシークエンス解析を行い、各種細胞における遺伝子発現の変動を調べ、臨床においてメモリー効果を担う細胞を線維芽細胞以外も対象に検討し、ファイブロサイトを含めた創傷治癒への関与について、次のステップの検証に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の値段が見込みより安かったため20100円の差額となった。この額を見込んで計画的に使用する予定である。
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