研究課題
緑内障手術成績を改善させるにあたって、線維化メカニズムのコントロールが重要である。特に再手術症例においては線維化反応が強く生じ、成績が悪いことが臨床上の課題である。眼表面組織において、初回手術に伴う環境変化が細胞に記憶され再手術の成績に影響を与える「メモリー効果」が存在するというオリジナルな仮説の検証を行った。in vivo 濾過手術の動物モデルとして、マウスのMCP-1の結膜暴露(MCP-1群)と、結膜縫合(手術群)を施行し、シングルセルRNAシークエンス解析を行った。統合してクラスター分類したところ、18クラスターに分けられた。他のクラスターと比較したとき、線維芽細胞ではEpyc、Myoc、Fbln2、Cfh、Lhfp、Vcan、Lrp1、Gas1、マクロファージではCtsb、Ctss、Lyz2、Apoe、Lgmn、Hmox1、Arg1、Pf4が高発現の遺伝子であった。コントロール群、MCP-1群と比較して、手術群の変化が大きく、大きく増加あるいは独自のクラスターとなったのは、好中球、マクロファージ、線維芽細胞、平滑筋細胞であった。エピジェネティック関連遺伝子のうち、結膜線維芽細胞で発現が豊富なヒストン脱メチル化酵素に着目し、in vitro 実験をおこなった。TGF-β刺激はセリン-グリシン代謝経路酵素であるホスホセリンアミノトランスフェラーぜ1(PSAT1)、ホスホセリンホスファターゼ(PSPH)の発現が上昇した。ヒストンH3における4番目のメチル化リジン残基(H3K4)の脱メチル化を触媒するKdm1Aの阻害剤S2101の同時刺激によってこれらのセリン-グリシン代謝経路酵素の発現が抑制されるとともに、α-SMAなど線維化マーカーの発現も抑制された。以上の結果から、緑内障手術においてエピゲノムの変化が線維化をコントロールしていることが示唆された。
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