研究課題/領域番号 |
21K09710
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
梶田 敬介 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 研究員 (10896765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 網膜色素変性 / EYS / 網膜色素上皮 |
研究実績の概要 |
EYS(eyes shut homolog)は日本人における網膜色素変性(RP)の約3割を占める重要な原因遺伝子だが、その機能に関する研究は驚くほど少なくRP病態におけるEYSの役割は明らかではない。本研究では「分泌されたEYSはRPEに発現するPROM1と相互作用することで、RPEの貪食能を制御しているのではないか」という仮説を立て、これを実証することを目的としている。上記の仮説を実証するため、以下の2つの課題を実施している。 「課題1.光刺激時におけるEYSとPROM1の局在解析」明順応・暗順応させたゼブラフィッシュの眼組織およびブタ網膜組織の切片を作成し、抗EYS抗体と抗PROM1抗体を用いて免疫組織染色を行う。暗順応時のゼブラフィッシュとブタ網膜切片を作成し、抗EYS抗体をもちいて免疫染色を行いEYS発現を確認した。ゼブラフィッシュでは抗EYS抗体がワークしない可能性が高く、新たなモデルを模索中である。
「課題2.EYS存在下でのRPE貪食能変化の検討」RPE細胞を分泌EYSと共培養し、貪食能を評価する。これにより、培養液中に分泌されたEYSがRPEの貪食能に与える影響を明らかにする。 FLAGペプチドが融合したEYSを発現するプラスミドは既にクローニングは完了している。このプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクションし、細胞内と培養液中にFLAGペプチドが融合したEYSが発現していることを確認した。FLAGタグ濃縮キットを用いて、培養液中のFLAGペプチドが融合したEYSを回収し濃縮することができた。貪食能の評価については、蛍光ラベルしたブタ網膜外節を独自に作成した。RPEに貪食させRPEの貪食能を評価する方法を模索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1.光刺激時におけるEYSとPROM1の局在解析 1年目には、明順応下におけるゼブラフィッシュの眼球摘出を行い、凍結切片を作成した。また暗順応下におけるできるだけ新鮮なブタ眼球組織を入手し、ブタ網膜組織の凍結切片を作成した。これらの組織切片を用いて、抗EYS抗体と抗PROM1抗体を使用した免疫組織染色を行い、既報と同様のシグナルを確認する予定であった。ブタ網膜組織においては、抗EYS抗体を用いて仮説どおりの視細胞外のシグナルを確認できた。しかし、抗PROM1抗体を用いた免疫染色ではシグナルを確認できなかった。ゼブラフィッシュの網膜組織で抗EYS抗体を用いて免疫染色を行った結果、視細胞内にシグナルを確認できた。しかし、抗PROM1抗体を用いた免疫染色ではシグナルを確認できなかった。引き続き、EYSとPROM1の共発現を確認するため、ブタとゼブラフィッシュで使用可能な抗PROM1抗体を検索する予定である。
課題2.EYS存在下でのRPE貪食能変化の検討 RPE細胞を分泌EYSと共培養し、貪食能を評価する。これにより、培養液中に分泌されたEYSがRPEの貪食能に与える影響を明らかにする。 1年目には、FLAGペプチドが融合したEYSを発現するプラスミドを作成した。この作成したプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクションし、抗FLAG抗体を用いてウエスタンブロットまたはドットブロットを行った。培養上清のウエスタンブロットを行うことで、トランスフェクション方法・プラスミドの濃度・培養細胞数を最適化した。また、細胞内および培養液中のEYS発現を確認できた。培養液中のFLAGペプチドが融合したEYSを、FLAGタンパク濃縮キットを用いて回収し、濃縮することができた。
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今後の研究の推進方策 |
課題1.光刺激時におけるEYSとPROM1の局在解析 3年目には、引き続き明順応・暗順応させたゼブラフィッシュの眼組織およびブタ網膜組織の切片を作成し、抗EYS抗体と抗PROM1抗体を用いて免疫組織染色を行う。これによりEYSの局在が明順応・暗順応で変化していること、RPE周辺でのPROM1と共局在していることを明らかにする。また、光刺激時におけるEYSの局在変化が種族間で共通であるか検討する。問題点としては、ゼブラフィッシュのEYSがヒトやブタと違いC末端のアミノ酸配列が異なっていることが挙げられる。作成した抗体や市販の抗体ではEYSが認識できない可能性が高く、用いる実験動物として不適切な可能性が高い。EYSの発現解析が可能な実験動物の検索を同時に行う予定である。 課題2.EYS存在下でのRPE貪食能変化の検討 RPE細胞を分泌EYSと共培養し、貪食能を評価する。これにより、培養液中に分泌されたEYSがRPEの貪食能に与える影響を明らかにする。2年目以降では、EYSが分泌された培養液をRPE細胞に添加し、RPE細胞の貪食能変化を評価する。貪食能の評価については、蛍光ラベルしたブタ網膜外節を独自に作成しており、ブタ網膜外節を細胞培養液中に添加しRPEに貪食させた後にを解析することで、RPEの貪食能を評価する。この解析にはフローサイトメトリーを用い、蛍光ラベルしたブタ網膜外節を貪食したRPE細胞数を測定し、EYS添加後の変化を評価する。実験にはLonza社human RPE細胞と、iPS細胞 (253G1) から分化させたRPE細胞を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題1.光刺激時におけるEYSとPROM1の局在解析 2年目には、明順応・暗順応させたゼブラフィッシュの眼組織およびブタ網膜組織の切片を作成し、抗EYS抗体と抗PROM1抗体を用いて免疫組織染色を行う予定だった。これによりEYSの局在が明順応・暗順応で変化していること、RPE周辺でのPROM1と共局在していることを明らかにする目的だった。既報ではゼブラフィッシュEYSは市販抗体で免疫染色できると報告されていたが、我々の検討では明らかなシグナルが得られなかった。このため、用いる抗体の条件検討や、ゼブラフィッシュEYSの遺伝子確認などに期間を要した。用いた試薬は1年目以前に購入したもので不足がなかったため物品費を使用しなかった。またコロナウイルス蔓延もあり、学会自体が縮小傾向であり、当研究室でも協議した結果、出張者の危険も鑑みて海外学会での発表を取りやめることになった。使用計画としては、当初の予定どおりの実験に使用する予定である。
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