研究課題/領域番号 |
21K09721
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
細谷 修 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (90304310)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トポイソメラーゼIIβ / 網膜 / 視細胞 / メダカ / Tet-ON / CRISPR/Cas9 / Cre/loxP / 網膜疾患 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、小型硬骨魚類メダカの桿体視細胞(桿体)を解析モデルに、成熟期以降の視細胞および網膜視機能におけるトポイソメラーゼIIβ(TopIIβ)が果たす役割を明らかにするとともに、網膜変性疾患の発症やその病態への関与の可能性を検証することである。令和3年度は、終末分化後の任意の時期(成熟期, 老齢期)に桿体限定的にTopIIβ遺伝子の機能阻害または破壊を誘起出来るトランスジェニック・メダカ系統の作出に取り組んだ。まず初めに、抗生物質テトラサイクリンの誘導体であるドキシサイクリン(Dox)を投与することでメダカの桿体特異的に任意のタイミングで、かつ可逆的な導入遺伝子の誘導発現を可能にする新規テトラサイクリン遺伝子発現調節(newTet-ON)システムの開発に着手して、その実用化に成功した(論文および学会で発表)。続いて、TopIIβ遺伝子の発現量をノックダウンさせる目的で、newTet-ONシステムとCRISPR/Cas9システムを用いたトランスジェニック・メダカ2系統:Tg(U6-TopIIβ-gRNA) (RNA pol III系プロモーター制御下に全身性にゲノム上のTopIIβ遺伝子の特定DNA配列を標的とするガイドRNAを発現) とTg(Rho-Cas9)(ロドプシンプロモーター制御下でDox存在時にのみ桿体特異的にCas9 nucleaseを発現する系統)の作出と、交配によるダブルトランスジェニック・メダカの作出が出来た。現在さらに、TopIIβ遺伝子の発現を完全にノックアウトさせる目的で、newTet-ONシステムとCre/loxPシステムの組み合わからなるダブルトランスジェニック・メダカ系統の作出に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
TopIIβの機能解析のためのトランスジェニック・メダカの作出において必須の基盤技術である遺伝子発現調節(newTet-ON)システムの新規開発に成功して、メダカの桿体視細胞特異的に任意のタイミングで導入遺伝子の発現誘導制御を行うことが可能となった。また、newTet-ONシステムとCRISPR/Cas9システムを用いてTopIIβ遺伝子のノックダウンを可能にするトランスジェニック・メダカ:Tg(U6-TopIIβ-gRNA) とTg(Rho-Cas9)の2系統を作出することも出来た。さらに、これら2系統の交配でダブルトランスジェニック・メダカ系統を得ることも出来た。以上の項目については、予定していた期間内に目的を達成することが出来た。ところが、得たダブルトランスジェニック・メダカを用いてTopIIβ遺伝子の機能阻害誘導を試みたところ、遺伝子ノックダウンに関連した明確な表現型の存在を証明することが出来なかった。調べた限りにおいてその原因究明に至らず、作出したノックダウン系統を用いた実験からではTopIIβの機能解析を進めることが困難と判断した。そこで急遽、Cre/loxPシステムを利用してTopIIβ遺伝子機能の完全な除去(ノックアウト)を可能にする新たなトランスジェニック・メダカ系統を作出し直すことに方針を変更し、現在、新規ノックアウト系統の作出実験を優先して行なっている。その為、当初令和3年度後期に開始を予定していたTopIIβ遺伝子の機能阻害に関連する表現型の解析(組織化学、免疫染色、TUNEL染色を用いた網膜構成細胞に起こる形態学的変化や細胞死に関する解析)を令和4年度に先送りせざるを得ない状況が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
newTet-ONシステムとCre/loxPシステムの組み合わせからなるTopIIβ遺伝子ノックアウト解析用トランスジェニック・メダカ系統の作出を可能な限り短い期間で進める為に、幾つかの実験工程を同時進行できるように綿密に実験計画を組み立て直した。新しい計画に従って、これまでにloxP配列を挿入するための相同組換え用長鎖一本鎖DNA、ゲノム編集技術を用いたノックイン用のガイドRNAの作製を終え、受精卵にマイクロインジェクションして、現時点でトランスジェニックfoundor(TopβII-floxedメダカ)候補の飼育過程まで至ることが出来た。また同時に、Cre recombinaseをコンディショナルに発現させる為の遺伝子改変用のプラスミドベクターの作製も終え、メダカ網膜の桿体特異的な発現誘導が起こることを確認できた。今後は、目的の導入遺伝子をもつ個体の選抜を行い、さらに最低2世代の継代を要することになる。この継代過程は短縮不可である為、この間を利用して将来予定する解析(組織化学、免疫染色、TUNEL染色を用いた網膜構成細胞に起こる形態学的変化や細胞死に関する解析や、DNA損傷修復機構や光酸化ストレス誘導性細胞老化への TopIIβ の関与を調べる解析)の準備や条件検討実験を事前に行うことで、期間内で研究のより円滑な遂行が可能になるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析用トランスジェニック・メダカ系統の作出が予定より遅れている為、トランスジェニック・メダカの作出後に令和3年度内に計画していた解析実験を先送りする必要が生じた。これにともなっていくつかの解析実験で使用を予定していた試薬類、器具類、撮影装置の令和3年度内の購入を止め、令和4年度内に購入することにした。現時点で解析実験の内容に大きな変更予定はないため、令和3年度分の残金は研究計画書の令和3年度分で申請した内容からほぼ変更すること無く令和4年度に使用する予定である。
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