研究課題
本研究の最終目標は、移植先微小環境に対するヒト角膜内皮細胞の適応能を予測評価する方法を確立し、長期治療成績に優れる移植細胞の選別を実現することである。本研究課題では、以下を明らかにすることを目的としている。a). 前房内病変因子の同定、b). 移植先環境安定性に関与する遺伝子群の選定c). b の検出法の確立。今年度の研究実績は以下の通りである。(1)in vitro 培養角膜内皮細胞を用いた細胞変性評価。ドナーの異なる複数の角膜内皮細胞を相転移誘導性の異なる条件下で培養し、細胞の変性度合いを指標に易相転移性群と難相転移性群に区分して、両群の比較解析から移植先環境安定性に関与する遺伝子群を同定する。そのために、8ドナー角膜由来の角膜内皮細胞凍結保存ストックを作成した。これらを解凍し、12種の条件で培養したところ、予想通り、同じ条件であってもドナー間で相転移の起こりやすさに差がみられ、相転移性の異なる角膜内皮細胞のセルバンクを作成することに成功した。これらを先述の2群に分類し、各群3細胞ロット(計6ロット)×8条件について、培養した細胞からRNAを抽出し、RNAシークエンス用ライブラリを調製した。次年度に、次世代シークエンサーによる解析を行い、両群の細胞応答の差異から細胞の健常性破綻経路の候補を選定する。(2)従来型角膜移植術 in vivo 成績からの解析。移植用ドナー角膜の手術に使用された後の残り部分から角膜内皮細胞を採取し、拡大培養後、凍結保存した。今年度は62例分を保存した。次年度に、(1)の研究の解析により健常性破綻経路の候補が選定でき次第、この細胞バンクを用いて、移植後予後成績との相関解析に進む。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標は、(1)相転移素因評価用の培養ヒト角膜内皮細胞ストックの調製、(2)トランスクリプトーム解析による健常性破綻経路の推定、(3)角膜移植同ドナー由来培養細胞のバンク化の3つであった。(1)に関しては、5名分以上のドナー角膜が目標であったが、8ドナー分の角膜内皮細胞ストックが調製でき、相転移性群と難相転移性群について各3ロットを(2)の解析に供することが可能となった。(2)については、委託予定であった次世代シークエンサー解析が、受託業者から依頼が集中していて年度末の解析結果納品が不可能という連絡を受け、次年度での実施に変更した。従って、本解析用の研究予算も次年度に繰り越した。RNAシークエンス用ライブラリは調製済みである。(3)については、目標の50例分を超える凍結保存細胞バンクが調製できた。以上のように、委託解析を除いて、全て計画通りに進捗している。
(1)次世代シークエンサーの解析と並行して、評価用サンプルの調製を開始する。細胞抽出液、核酸等。解析終了後遅延なく、検証・選別実験に移行する。本年度の成果で得られた8ドナー分の細胞ストックのうち、1ロットについては12培養条件中1培養条件でのみしか相転移がみられず、難相転移群の中でも極めて優れた環境耐性を示した。このことから、移植先微小環境に対する応答性に個体差があることが明白であり、特にこのロットに着目して解析を進める。(2)今年度にバンク化した細胞について、主に移植後の角膜内皮密度を指標に群分けを行う。健常性破綻経路の候補の選定が終了後、移植後予後成績との相関解析に進み、さらに候補を絞り込む。
進捗状況に記載した通り、委託予定であった次世代シークエンサー解析を次年度に変更したためである。繰越額が大きいのは本解析にかかる費用が高額なためで、本解析関連以外については計画通りに執行した。既にRNAシークエンス用ライブラリは調製済みであり、すぐに解析に移行する。
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American Journal of Ophthalmology
巻: 237 ページ: 267~277
10.1016/j.ajo.2021.11.012