培養ヒト角膜内皮細胞注入法あるいは従来型の角膜移植において、移植先微小環境における適応能を予測評価し、長期予後成績に優れる移植用ヒト角膜内皮細胞(HCECs)を選別する方法を確立することを目的とし、本研究を実施した。 本課題において、従来の角膜移植術における術後の生体内の細胞密度と移植後残部を使用した培養角膜内皮細胞の品質との相関を調査したコホート研究を実施し、培養環境下で相転移を起こさず高品質を維持するHCECsは、角膜移植後の生体内での細胞密度減少率が低い傾向にあることを見出した。すなわち、培養環境下における低い相転移性は、生体内における細胞の健常度を反映していることが明らかとなり、ドナー間で相転移抑制能・移植先環境適応能に差異が存在し、それをin vitroの培養HCECsを用いて評価・予測できる可能性が示された。 さらに、研究用ドナー角膜からHCECsを培養し、凍結保存ストックを作成した。これらの凍結細胞を起眠し、複数の培養条件下で培養して、細胞形態変化を指標に容易に相転移が誘導される群(易相転移性ロット)と誘導されない群、すなわち健常性を維持する群(難相転移性ロット)とに選別した。各群からRNAを抽出し、RNA-Seqを行ったところ、CD166の発現量は全てのロットで差がない一方で、CD44の発現は易相転移性ロットで有意に高く、以前に我々が確立・報告したフローサイトメーターによる細胞品質評価法の結果と一致した。また、DEG解析の結果、主に細胞老化や接着・細胞骨格に関わる遺伝子群が抽出された。 以上のように本研究課題において、相転移抑制能の異なる培養HCECsの凍結ストックを調製することができた。また、それらの比較解析から、培養下において健常性を規定すると考えられる、すなわち、移植先微小環境における適応能を予測評価できる候補因子が複数同定された。
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