研究実績の概要 |
以前に6つのコア転写因子(PAX6, OVOL2, KLF4, SOX9, TP63, MYC)を用いて皮膚線維芽細胞から角膜上皮細胞へのダイレクトリプログラミング(ある分化細胞から違う分化細胞の強制誘導を行う方法)に成功し、これらのコア転写因子が角膜上皮の正常分化を制御することを報告した。ドナー角膜を海外のアイバンクから研究用として入手し、ドナー角膜から角膜および結膜上皮細胞のみをディスパーゼを用いて単離し、昨年からヒト培養角膜上皮細胞およびヒト培養結膜上皮細胞の細胞老化について研究を進めている。X線照射により細胞老化を誘導した角膜上皮細胞と非老化誘導角膜上皮細胞を比較したところ、合計3295個の遺伝子の発現が異なっており、そのうち、1200個の遺伝子が上方制御され、2095個の遺伝子が下方制御されていた。一方、老化を誘導した結膜上皮細胞と非老化誘導結膜上皮細胞を比較したところ、合計2642個の遺伝子の発現が異なっており、そのうち、883個の遺伝子が上方制御され、1759個の遺伝子が下方制御されていた。さらに、老化角膜上皮細胞と老化結膜上皮細胞を比較したところ、老化結膜上皮細胞で角化関連遺伝子の発現が有意に上がっていることを見出した。さらに、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡といった眼表面の角化を引き起こす角膜上皮幹細胞疲弊症である、難治性眼表面疾患の眼表面組織を手術時に採取して免疫染色をおこなった。その結果、同年齢の正常結膜組織と比較して、難治性眼表面疾患の眼表面組織ではp16陽性の老化細胞が存在することがわかり、p16陽性の組織では角化関連のタンパク発現が上昇していることがわかった。このことは、老化細胞が眼表面の角化の病態に関与していることを示唆する。
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