研究課題/領域番号 |
21K09756
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
林 孝彰 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (10297418)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 遺伝性網膜疾患 / 網膜色素変性 / 黄斑ジストロフィ / 遺伝子治療 / ベータカロテン治療 / 次世代シークエンサ / 全エクソーム解析 |
研究実績の概要 |
進行性の遺伝性網膜疾患は、決定的な治療法が確立していない重要疾患で、その大半を占める網膜色素変性や黄斑ジストロフィは難病認定されている。近年、RPE65遺伝子変異による網膜ジストロフィに対する、アデノ随伴ウィスルベクターを用いた遺伝子治療が米国で認可され、日本でも治験が開始されている。CHM遺伝子変異やRPGR遺伝子変異を有するX連鎖性コロイデレミアそしてX連鎖網膜色素変性に対する遺伝子治療の臨床治験が欧米で実施され、日本でも治験が行われる可能性がある。また、視サイクルを制御する遺伝子群 (RPE65, LRAT, RDH5) の変異による網膜ジストロフィでは9-cis-ベータカロテン治療が報告されている。ABCA4変異によるStargardt病に対する視サイクルを制御する内服治療も開始されつつある。このように原因遺伝子が特定されれば将来治療の対象となる可能性があることから、遺伝子解析・遺伝子変異同定の重要性は増している。令和4年度は、以下の研究成果が得られた。 1. RDH5遺伝子の両アレル変異が原因の白点状眼底は、進行性の遺伝性網膜疾患であり、進行を抑制する治療法開発が急務である。そこで、多施設共同研究により、RDH5遺伝子変異を有する白点状眼底症例に対して、9-cis-ベータカロテン治療による前向き研究に着手した。本研究の主要評価項目である、網膜電図各種波形の振幅は、ベースライン、治療3か月後、治療1年後を比較検討したところ、統計学的に有意に振幅が低下していた。そのメカニズムを考案し、現在論文執筆中である。 2. 欧米で最も頻度の高いStargardt病は、ABCA4遺伝子の両アレル変異によって発症する。現在、欧米で内服治療薬の治験が進行中である。一方、日本人Stargardt病の頻度は、欧米より低いものの多数例で検討した報告はほとんどない。まず、全国調査を行い、日本人Stargardt病の遺伝学的検査を行う研究を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進行性遺伝性網膜疾患の治療に向けた全エクソーム解析と疾患表現型の同定を目標とする研究は、概ね順調に進展している。進行性の遺伝性網膜疾患の大半を占める網膜色素変性や黄斑ジストロフィは難病認定されている。アデノ随伴ウィスルベクターを用いた遺伝子治療が行われている遺伝子群 (RPE65, CHM, RPGR, PDE6A)、9-cis-ベータカロテン治療の対象となりうる遺伝子群 (RPE65, LRAT, RDH5)、ABCA4変異によるStargardt病など、間もなく治療・治験が開始されうる疾患は多数存在する。現在、進行性遺伝性網膜疾患の30例に対して、治療に向けた全エクソーム解析を実施予定である。遺伝子解析・遺伝子変異同定の重要性は増しており、希少疾患である進行性遺伝性網膜疾患の治療実施に向け次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析を施行し、その疾患表現型を明らかにする研究を継続していく予定である。また、多施設共同研究により、RDH5遺伝子変異を有する白点状眼底症例に対して、9-cis-ベータカロテン治療による前向き研究の結果がほぼまとまった。その結果、網膜電図各種波形の振幅は、ベースライン、治療3か月後、治療1年後を比較検討したところ、統計学的に有意に振幅が低下していた。そのメカニズムを考案し、現在論文執筆中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、難病認定されている網膜色素変性や黄斑ジストロフィなどの進行性遺伝性網膜疾患の症例に対し、治療実施に向けた次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析を施行し、その疾患表現型と遺伝型の関連を明らかにする研究を継続していく予定である。また、遺伝子治療対象疾患(特に網膜色素変性を中心に)、9-cis-ベータカロテン治療の対象となりうる疾患群、Stargardt病の症例に対して、全エクソーム解析を実施し、疾患表現型と遺伝型の関連性の成果を発表論文としてまとめていく予定である。また、進行性遺伝性網膜疾患の国内共同研究ならびに国際共同研究を推進し、将来の治療研究へ向けた重要な基盤を築き上げたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に予定していた次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析するためのサンプル数が目標より少なかったため。また、学会参加費、英文校閲料、英文論文掲載料が計画より、安価で済んだため。令和5年の最終年度は、次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析するためのサンプル数を増やしていき、結果・成果を英文論文として、発表する予定である。
|