研究実績の概要 |
進行性の遺伝性網膜疾患は、決定的な治療法が確立していない重要疾患で、その大半を占める網膜色素変性や黄斑ジストロフィは難病認定されている。2023年、RPE65遺伝子変異による網膜ジストロフィに対する、アデノ随伴ウィスルベクターを用いた遺伝子治療が日本でも認可され、保険収載された。同時に遺伝性網膜ジストロフィに対する遺伝子パネル検査も保険収載された。しかしながら、それ以外のほとんどの網膜ジストロフィに対する有効な治療法は確立されていない。視サイクルを制御する遺伝子群 (RPE65, LRAT, RDH5) の変異による網膜ジストロフィでは9-cis-ベータカロテン治療が報告されていた。ABCA4変異によるStargardt病に対する視サイクルを制御する内服治療も臨床試験が開始された。このように原因遺伝子が特定されれば将来治療の対象となる可能性があることから、原因遺伝子変異同定の重要性は増している。令和3年度から令和5年度にかけて、視サイクルを制御する遺伝子群の中で特に日本人に多いRDH5遺伝子の両アレル変異が原因で発症する白点状眼底に着目した。本疾患は、進行性に黄斑ジストロフィや錐体ジストロフィを高率に合併することが明らかにされていた。そこで、進行を抑制する治療法開発が急務であると考え、多施設共同研究により、RDH5遺伝子変異を有する白点状眼底症例に対して、9-cis-ベータカロテン治療による前向き研究に着手し、以下の研究成果が得られた。本研究の主要評価項目である、網膜電図各種波形の振幅は、ベースライン(治療前)、治療3か月後、治療1年後を比較検討したところ、統計学的に有意に振幅が低下していた。本研究成果から、RDH5変異関連白点状眼底に対する9-cis-ベータカロテン治療は、必ずしも有益とはいえないと考えられた。
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