研究課題/領域番号 |
21K09768
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
今井 洋文 広島大学, 病院国際リンパ浮腫治療センター, 助教 (10868847)
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研究分担者 |
川瀬 孝和 藤田医科大学, 国際再生医療センター, 准教授 (30463194)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リンパ浮腫 / リンパ管静脈吻合 / T細胞 / T細胞受容体 |
研究実績の概要 |
リンパ浮腫ではリンパ液の還流が障害され、四肢へのリンパ液貯留が起こる。リンパ浮腫を発生母体として蜂窩織炎の頻発と血管肉腫の発症が報告され免疫不全となっていることが示唆されている。本研究でリンパ浮腫患者とリンパ管静脈吻合術(LVA)術後および健常者の間で末梢血中のT細胞の表現型と細胞内サイトカイン産生能およびT細胞受容体(TCR)のレパートリーについて評価比較した。リンパ浮腫患者でPD-1、Tim3の疲弊因子の表現型が健常者と比較して上昇しており、LVA術後に有意に低下した。リンパ浮腫患者のTregの頻度が健常者と比較して上昇していたが、LVAによって変化しなかった。リンパ浮腫患者で健常者と比較するとNaiveの頻度が低下しTerminal effectorの頻度が上昇していたがLVAによって変化しなかった。CD4陽性T細胞上のIFN-γの産生能がリンパ浮腫患者において健常者と比較して上昇していたが、LVAによって有意に低下した。TCRのDiversity indexはリンパ浮腫患者で健常者と比較すると低下していたが、LVAによって有意に上昇し健常者と同等となった。 T細胞の疲弊化はリンパ浮腫における慢性炎症を反映していると考えられる。LVAによってリンパ潅流が改善されることにより慢性炎症が緩和されてT細胞の疲弊因子の発現頻度が減少したと考えられる。IFN-γはリンパ管再生を阻害するため、慢性炎症によってリンパ浮腫で上昇していたと考えられる。疲弊因子と同様、LVAによってリンパ潅流が改善されることによりIFN-γ産生能が低下したと考えられる。TCRのDiversityはリンパ浮腫で低下しており、慢性炎症とリンパ潅流障害によるものと考えられる。 本研究によりリンパ浮腫における末梢血中のT細胞の変化が免疫不全へと繋がる可能性を示唆し、LVAによって改善されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はリンパ浮腫患者における免疫病態を調査し免疫不全に繋がる要因について評価すること、更にLVAによってT細胞がどう変化するかを評価する。リンパ浮腫の末梢血T細胞を用いた研究を困難にさせた要因がある。それは、二次性リンパ浮腫患者は全例癌治療経験者であり、癌既往が免疫に与える影響があるためリンパ浮腫における末梢血T細胞の研究が困難であった。しかし、当センターでLVAによる浮腫治療の前後を比較することでリンパ浮腫におけるT細胞の研究を可能とした。 本研究はリンパ浮腫患者とLVA術後(リンパ浮腫患者の術後1年Follow)および健常者で比較しており、十分な追跡期間と症例を得ることができた。それらのデータを纏めてiScienceに報告し受理された。 しかし、リンパ浮腫患者に特徴的なTCRについての知見を得ることができなかった。その要因としてそもそもリンパ浮腫患者ではTCRのDiversityが低下しており、Shared TCRを発見できなかったためである。今後追加実験としてリンパ浮腫患者に特徴的なTCRについて調査したい。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究でリンパ浮腫患者におけるT細胞の変化とLVAによるT細胞への影響について報告した。リンパ浮腫によるT細胞への影響があることを示し、また過去の知見も併せるとT細胞がリンパ浮腫の進展にも関わっている可能性が高いと考えられる。よって今後の研究としてはリンパ浮腫に特徴的で病態進行に関わるT細胞を突き止めることをテーマとする。 リンパ浮腫患者と健常者の間でHLA phenotypeを統一し、表現型と遺伝子解析を行う。リンパ浮腫で特徴的なpopulationを断定し、そのpopulationをソーティングして抽出しTCRのレパートリー解析を行う。 より狭い範囲でTCRのレパートリー解析を行うことでShared TCRを発見しリンパ浮腫に特徴的なT細胞を同定したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は末梢血中のT細胞を起点としたリンパ浮腫における免疫病態解明に向けた研究である。前項までに述べたようにリンパ浮腫患者とLVA術後および健常者間でT細胞の表現型とTCRのDiversityについて調査し結果を述べた。本年度(2022年度)はデータの抽出と論文化に時間を費やした。データの解釈からリンパ浮腫に特異的なT細胞の同定に繋げるため、データの解釈に労力を費やしたために研究費の余りが生じた。 来年度(2023年度)は本年度(2022年度)のデータをもとにリンパ浮腫に特異的なT細胞の同定のための研究を行いたい。
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