研究課題/領域番号 |
21K09775
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
松崎 恭一 国際医療福祉大学, 医学部, 主任教授 (20278013)
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研究分担者 |
難波 大輔 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (10380255)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 難治性潰瘍 / 表皮角化細胞 / 幹細胞 / XVII型コラーゲン |
研究実績の概要 |
創傷治癒不全では皮膚に存在する幹細胞の機能低下が示唆されている。その機能低下は、幹細胞自身が原因である内因性の要因と、幹細胞が外部の影響によって変化する外因性の要因によるとされている。これまで研究代表者らは糖尿病性足潰瘍と体幹部の表皮角化幹細胞を単離し、培養実験を行った結果、両者の増殖能に有意差が見られないことを明らかにした。従って、創傷治癒不全における幹細胞の機能低下は、外部に起因すると推察した。そこで本研究では、表皮角化幹細胞の機能維持に関与する外部環境の変化が、創傷治癒不全に関与するかを探究する。具体的には、表皮角化幹細胞の機能維持に必須であるXVII型コラーゲンの発現、XVII型コラーゲンの分解酵素とその内在性阻害分子の発現、さらに培養ヒト表皮角化幹細胞を用いてその機能を解析する。本研究は創傷治癒不全の機構の一旦を解明するものであり、新たな治療法の開発につながる。 本年度は、XVII型コラーゲン(COL17A1)の分解促進によって、ヒト表皮角化細胞の運動能が低下し、上皮化の遷延が起こることを明らかにした。また、COL17A1の分解には、EGFRシグナルが関与しており、EGFRシグナルの下流で誘導されるTIMP-1タンパク質が、COL17A1の分解を抑制していることを明らかにした。このEGFR-TIMP1-COL17A1経路が、表皮角化幹細胞の遊走能維持に必須であり、創傷治癒における上皮化を誘導する要因の一つであると考えられる。今後は、このシグナル軸を中心に、創傷治癒不全の機序解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、上皮化の遷延がXVII型コラーゲンの分解促進で起こること、さらに、角化細胞におけるEGFRシグナルがXVII型コラーゲンの分解制御に関与していることを明らかにし、Journal of Cell Biologyに誌上報告した。その成果は創傷治癒のうち上皮化のプロセスの分子機構の一部を明らかにしたものであり、この分子機構の破綻が、創傷治癒不全に関与していることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ヒト潰瘍組織において、XVII型コラーゲンやEGFRなどの発現を免疫組織化学的に明らかにする。またEGFRを活性化するEGFR-ligandの発現変化が、潰瘍発生に関与していることも考えられるため、7種類あるEGFR-lingのすべてについて、安定同位体標識をした内部標準タンパク質を、小麦胚芽を用いた無細胞タンパク質合成系を用いて作製し、糖尿病罹患患者や糖尿病性足潰瘍を発症した患者と、健常人の血液や皮膚などの各生体試料でEGFR-ligandの量を質量分析機によって定量する。本実験系の構築は研究分担者と共に進めており、内部照準タンパク質の合成がほぼ完了した。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス蔓延のため、研究成果発表のための出張を控えたことから次年度使用額が生じた。次年度は翌年度分と合わせた出張費で研究成果を発表する。
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