創傷治癒不全では、皮膚に存在する幹細胞の機能低下が示唆されている。この幹細胞の機能低下は、幹細胞自身が原因である内因性の要因と、幹細胞が外部の影響によって変化する外因性の要因によるものとされる。最近、研究代表者らは糖尿病性足潰瘍と体幹部の表皮角化幹細胞を単離し、培養実験を行った結果、両者の増殖能に有意差が見られないことを明らかにした。従って、創傷治癒不全における幹細胞の機能低下は、外部に起因すると考えられる。そこで本研究では、表皮角化幹細胞の機能維持に関与する外部環境の変化が、創傷治癒不全に関与していないかを明らかにする。具体的には、表皮角化幹細胞の機能維持に必須であるXVII型コラーゲンの発現、XVII型コラーゲンの分解酵素とその内在性阻害分子の発現、さらに培養ヒト表皮角化幹細胞を用いてその機能を解析する。本研究は創傷治癒不全の機構の一旦を解明するものであり、新たな治療法の開発につながる。 令和3年度、4年度の研究から、EGF受容体の活性化によって、メタロプロテアーゼ阻害タンパク質であるTissue inhibitor of metalloproteinase 1 (TIMP1)が誘導され、細胞膜表面にあるXVII型コラーゲン(COL17A1)の分解が抑制されることが、表皮角化幹細胞の遊走能維持に必須であり、創傷治癒における上皮化を誘導する要因の一つであることを報告した。令和5年度は、実際のヒト潰瘍試料において、COL17A1やEGFR、TIMP1などの発現解析を用いて行い、それらの発現変化を明らかにした。
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