研究課題/領域番号 |
21K09803
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
林 礼人 順天堂大学, 医学部, 教授 (10365645)
|
研究分担者 |
野尻 岳 順天堂大学, 医学部, 助手 (20837231)
市原 理司 順天堂大学, 医学部, 特任准教授 (40599247)
内山 美津希 順天堂大学, 医学部, 助手 (60814506)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 端側神経縫合法 / 人工神経 / 無細胞神経 / シュワン細胞充填 / 軸索再生 / 神経再生 |
研究実績の概要 |
我々は、ドナー神経の両端に部分的に軸索断裂を加え、端側神経縫合法を用いてシュワン細胞(SC)を無細胞化自家神経に遊走させる方法を先行研究で報告してきた。今研究では、端側神経縫合法を用いて人工神経(AN)内にSC遊走させたモデルを作成し、そのSC充填ANを20mmの神経欠損ラットに移植した群(ETS群)と、無細胞人工神経を20mm神経欠損ラットに移植した群(Control群)とで比較を行い、その有用性について検討を行った。 ETS群は、初回手術で、SDラット坐骨神経に22mmコラーゲン性ANを両側端側神経縫合で移植した。4週間観察後に2期手術としてSCが遊走したANを採取し、トランスジェニックラットの20mm坐骨神経欠損に、採取したANを端端神経縫合で移植した。移植後4週、16週で評価した。Control群は、トランスジェニックラットの坐骨神経に20mmの神経欠損を作成し、コラーゲン性ANを端端神経縫合で移植し、移植後4週、16週で評価した。 評価方法として4週時点のSCの面積率、定量評価を行い、16週時点では軸索数、軸索面積率、軸索形態学的評価、感覚神経評価、運動神経評価を行った。 4週時点における各群のSC充填面積率、定量評価ではControl群と比較してETS群で有意差をもってSCがANに充填されていることが確認できた。16週時点では、軸索数、面積率、形態学的評価においてETS群で有意に軸索伸長が進んでいる所見が得られた。また、足底の感覚神経評価ではETS群で有意に感覚神経の改善を認めたものの、前脛骨筋の平均筋線維面積の有意差は得られなかった。これらより、端側神経縫合法を用いてAN内にSCを充填する本法は、16週時点において神経再生と感覚神経の回復が優れていることが確認できたが、運動機能の回復には時間を要すると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスジェニックラットの繁殖が安定して行える様になり、モデル作成が安定したことに加え、電子顕微鏡を用いた形態学的評価や感覚神経の再生評価、さらに筋重量や筋繊維の評価など、様々な評価法を確立し、多角的な検討を行える様になっている。 SC充填型AN(ETS群)の16週経過例では、20mmのAN遠位断端まで軸索再生を電子顕微鏡で確認できているが、遠位の坐骨神経では軸索再生はやや乏しく、再生途中であった。また神経筋接合部まで軸索再生は確認できていない。感覚神経の改善に関しては健側と同じ程度まで改善を認めているものの、前脛骨筋の改善はみられておらず、運動神経は改善途中であることが考えられた。 今回の実験で使用したコラーゲン性ANは3~4か月で分解が進んでしまいControl群、ETS群ともに16週時点でのANはかなり狭小化してしまっていた。今後よりよい結果を得るには分解が遅い材料へ変更する必要があると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策には、次の3つの点に留意しながら進めていくことを検討している。 ①ETS群の長期のモデル(24週)を作成し、ETS群で神経筋接合部まで軸索再生がみられるか、運動神経の改善がみられるかについて実験を継続していく。 ②人工神経の分解について:この問題を改善するには、分解を遅らせ、感染などが生じにくいと言われている非分解性材料であるPTFE(Poly-tetrafluoro-ethylene)や、大阪市立大学が開発した分解まで半年から1年程度かかると言われているPCL/PLA(ポリカプロラクトンとポリ乳酸)のANなどを使用して実験ができればと考えている。 ③今回の実験では4週時点の神経栄養因子(NGF,BDNF)のみを調べたが、今後はマクロファージ(M1,M2)、老化因子であるp16INK、ミエリン形成などに関連するErbB2,NRG1などについても調べていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ窩で学会への出張が減ったことや次年度以降でのモデルの集中的な評価のために、資金を繰り越す必要が生じた。 次年度では、より積極的な学会への現地参加と分子生物学的な評価のために資金を使用し、より充実した研究内容にしていく。
|