研究課題/領域番号 |
21K09814
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 篤 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (90201855)
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研究分担者 |
古田 貴寛 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (60314184)
佐藤 文彦 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60632130)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小脳 / 咀嚼筋 / 情動 / 筋紡錘感覚 / 神経トレーサー |
研究実績の概要 |
我々は、これまでの研究から、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳入力部位が情動機能に関与しているとの仮説を提唱している。また、ラットは、咀嚼筋筋紡錘感覚のみが三叉神経上核に伝達されるという、筋紡錘感覚の伝達路研究の遂行上の利点を持つことが既に明らかになっている。そこで令和3年度の研究では、小脳の情動機能に関わる神経機構の解明のため、ラットを用い、神経トレーサーの脳内注入と神経活動の電気生理学的記録を駆使し、まず、咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する小脳部位の解明を目指した。橋に刺入したガラス管電極から、咬筋神経の電気刺激と開口運動に対する応答を記録することで三叉神経上核を同定し、この中に、順行性神経回路トレーサーであるBDAを注入した。切片を作成し、BDAを可視化して観察したところ、BDA標識神経終末は小脳皮質内では、両側の小脳皮質半球部、特に小脳皮質第VIの単小葉B (Sim B)、第VII小葉の第二脚 (Crus II)、第X小葉の片葉 (Flocculus) の3カ所に多数認められた。次に、これらの3カ所に刺入したガラス管電極から、咬筋神経の電気刺激と開口運動時の応答の記録を試みた所、顆粒層から記録できた。さらに、上記の様にして電気生理生理学的に同定された小脳皮質の3カ所に、逆行性神経回路トレーサーであるCTbあるいはFGを充填したガラス管電極を刺入しCTbあるいはFGを注入した。その結果、標識細胞が両側の三叉神経上核に多数認められた。以上の令和3年度の結果は、三叉神経上核から3カ所の小脳皮質への投射が、閉口筋筋紡錘感覚が伝達される小脳部位であることを示唆している。この部位が情動機能に関与している小脳部位である可能性が高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳入力部位が情動機能に関与しているとの我々の仮説に基づき、咀嚼筋筋紡錘感覚のみが三叉神経上核に伝達されるという、筋紡錘感覚の伝達路研究遂行上の利点を持つラットを用いて研究した。令和3年度の研究である、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位の解明では、咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する三叉神経上核を電気生理学的に同定し、その中に限局した順行性神経回路トレーサーであるBDAを注入することがきわめて重要であるが、容易ではなかった。その手技自体は、我々の研究室で既に行ってきているので会得済みではあるが、限局した注入を容易に得る方法がないので、実験回数を上げなければならなかった。これに時間がかかってしまった。 得られたデータであるBDA標識軸索終末の小脳皮質内の分布の解析は困難を極めた。小脳皮を2次元に展開する方法は数種類報告されているが、いずれも容易な方法ではなく、またいずれも長所と短所があり、どの方法が我々の結果の解析に向いているのかの判断に時間を要してしまった。しかし研究分担者である古田貴寛講師と佐藤文彦助教の尽力と、大学院生1名と技術補佐員2名の協力を得て、おおむね順調に研究を進展させられた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の結果を受けて、令和4年度前半は咀嚼筋筋紡錘感覚と上肢の筋の筋紡錘感覚の小脳投射を比較するため、実験3として、延髄の外側楔状束核に刺入したガラス管電極から、正中神経の電気刺激と頸部と上肢の筋の圧迫や肘関節、手の関節の屈曲に対する応答を記録してBDAを注入する。標識終末の小脳内分布を調べる。令和4年度後半-令和5年度前半に、咀嚼筋筋紡錘感覚の大脳皮質-橋核路経由での小脳入力を解明するため、実験4として、令和3年度後半での実験と同様の方法で小脳部位を同定し、逆行性神経回路トレーサーであるCTBを注入後、同じ動物で、我々が明らかにしている咀嚼筋筋紡錘感覚が特異的に入力する島皮質に刺入したガラス管電極から、咬筋神経の電気刺激および開口運動に対する応答を記録して同定し、その島皮質にBDAを注入する。これによって、島皮質から入力し、小脳皮質に投射する部位が、例えば橋核に認められることを解明する。なお、実験での注入または記録の後は、ラットを灌流固定し、脳を摘出し、脳切片を作成する。標識軸索、標識細胞、記録部位のマーキングを顕微鏡観察する。実験4では標識細胞にコンタクトする標識軸索を探索する。令和5度後半に、本申請研究で得られる全結果を総括し、歯科基礎医学会、日本顎口腔機能学会、日本神経科学会、日本解剖学会等の国内やSfNなどの国外の学会で発表する。論文を作成して国際誌に公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究助成金の申請書に記載したように、2022年度も実験を遂行するので、それに必要な消耗品等の購入が必要である。また、実験の遂行と得られる研究結果の学術的評価を検討するために、学会に出席して情報交換が必要である。 (使用計画)2022年度の経費の使途は研究助成金の申請当初と基本的に大きくは変わっていない。しかし、実験回数を当初の計画よりも増やす必要が出てきたので動物、器具、薬品などの購入量を増やす予定である。以上により計画当初よりもより多めの支出を行う予定である。
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