研究課題/領域番号 |
21K09817
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
兼松 隆 九州大学, 歯学研究院, 教授 (10264053)
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研究分担者 |
松田 美穂 九州大学, 歯学研究院, 准教授 (40291520)
佐野 朋美 九州大学, 歯学研究院, 助教 (50782075)
溝上 顕子 九州大学, 歯学研究院, 准教授 (70722487)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 癌細胞 / 腫瘍随伴マクロファージ / 腫瘍微小環境 / PI3K/AKTシグナリング |
研究実績の概要 |
本研究は、癌細胞でPRIP(ヒトの遺伝子はPLCLと登録)によるPI3K/AKTシグナリング制御が抗腫瘍作用を示すという我々の研究成果からの研究提案であり、PRIP/ PLCL研究を腫瘍随伴マクロファージ(TAM)研究へと展開し腫瘍免疫を制御する新たな機構を明らかにする学術的な独自性がある研究である。 腫瘍免疫学の発展に伴い、腫瘍微小環境を構成する腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を標的とした新しい癌治療法の開発に注目が集まっている。さて、TAMには、M1型とM2型があり、癌免疫病態では、M1/M2バランスがM2型に傾くことで、TAMは癌の悪性化に寄与すると考えられている。TAMのM2型への極性化には、PI3K/AKTシグナルの亢進が重要である。我々は、PI3K/AKTシグナルを負に制御するPRIP分子を見出し、腫瘍細胞でのPRIP/ PLCLと癌悪性化と抗腫瘍活性獲得との関わりをすでに報告した。本研究では、癌細胞の指令で、TAMのPRIP/ PLCL発現の低下が誘導され、M2型TAMが増加して癌の悪性化が加速するという仮説のもとに研究を行う。 2022年度は、ヒト腎癌組織標本を解析して、臨床的に遠隔転移を有するヒト標本でM2型TAMが増加することを明らかにした。また、ヒトの癌細胞株、マクロファージ細胞株を用いてPRIP/ PLCLを介して抗腫瘍免疫系を賦活化する細胞内情報伝達系の解析を行い、そのシグナル制御の一端を明らかにした。 本研究は、癌細胞の指令で、TAMのPRIP/ PLCL発現の低下が誘導され、M2型TAMが増加して癌の悪性化が加速するとの考えの基に研究を行っており、引き続き、TAMを標的にした新たな制癌戦略を提案できるように研究を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度に行なったヒト腎細胞癌組織検体を用いて癌組織と正常組織におけるPLCL1とPLCL2との発現比較解析をもとにして、2022年度は腫瘍随伴マクロファージ(TAM)におけるPLCL1とPLCL2の発現レベルと臨床的遠隔転移の有無との関係を免疫組織科学的に解析した。この解析において期待通りの結果が出ている。また、ヒトの癌細胞株と単球由来細胞株の共培養実験からPLCL1とPLCL2の有無により、マクロファージ様細胞に誘導分化が起こる過程に違いがあることを明らかにし、かつそのシグナルの調節機構の分子メカニズムも分かりつつある。このように解析は順調に進んでいる。引き続き、研究完成に向けて推進していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に得られた研究成果において、ヒト標本の症例数を増やし解析精度を上げるようにする。癌細胞と単球由来細胞株との共培養系を用いた実験ではPLCLの有無によりマクロファージ分化による差異がどのような分子機構によるのかの予測ができたが、その分子を特定するために網羅的な解析を検討するなどして解析を進める。また、マウスの癌細胞株をPrip-KOマウス・野生型マウスに移植する実験を通してTAM(PLCL/PRIP欠損)の移植した癌の進展状況と出現するTAMとの組織学的解析、腫瘍増殖、遠隔転移解析を引き続き進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトの組織標本の蛍光多重染色の条件検討に時間を要したが、単一切片で高度に蛍光多重染色が可能となるOpal染色を用いることで問題が解決できた。本キットは通常の染色キットより高価であるが、次年度繰越金は本キットの購入にあて研究を進める。
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