研究課題/領域番号 |
21K09822
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
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研究分担者 |
豊田 健介 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (40585874)
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歯学 / 病理学 / マウス胎仔 / 舌形態形成 / 外側舌隆起 / 上皮間葉相互作用 / 舌筋発生 / 分子ネットワーク |
研究実績の概要 |
舌発生において最初に現れる外側舌隆起から舌形状までの形態形成については不明な点が多く残されている。今までの知見から、舌の形態形成では、舌原基を被覆する鰓弓上皮、その直下の神経堤由来の間葉細胞、ならびに舌筋系譜の細胞集団はそれぞれ舌の形態形成に重要な役割を持っていることが推察される。ただし、舌の形態形成に寄与するこれら3者が相互に作用する実態は明らかにされていない。本研究では、マウス舌発生での上皮―間葉(筋系譜と神経堤由来)間相互作用を担う分子ネットワークとその制御機構を明らかにすることによって、舌形態形成の機序の解明を目指す。 本年度では、ICRマウス胎仔での舌発生過程を細胞組織学的に再確認した。その結果、胎生10.5日からの下顎突起正中部での癒合と背側正中部での二峰性を成す外側舌隆起の形成が確認できた。後頭体節から下顎突起背側正中部への舌筋系譜の細胞移住と細胞集団の形成がみられ、舌筋系譜の細胞集団は釣鐘状の分布を呈し、釣鐘の上端部分が舌原基の正中溝上皮と基底膜を介して接しているのが観察できた。これらの結果から、舌原基では被覆する上皮と上皮下の舌筋系譜の細胞集団、並びに非筋系譜の細胞に分布領域を分けており、各細胞間での相互作用を推察しうる所見が得られ、検証に値するとあらためて確信できた。 舌原基でのDNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現の解析では、下顎突起正中部癒合から外側舌隆起形成までの段階(胎生10.5日⇒11.5日)では、「骨格筋の発生」「器官発生」「筋組織の奇形」に関わる遺伝子群が上位(Zスコア>2;p value>2E-4)にあり、筋分化関連遺伝子群だけでなく、上皮と舌筋系譜/非筋系譜細胞間での相互作用を担う候補遺伝子が列挙できた。なお、舌筋原基での骨格筋分化を制御する遺伝子群(Pax3,Myod1,Myf5,Myog,Mef2c,Myf6)のリアルタイムPCR解析では想定通りの発現変化を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2021年度)では、予備実験で得られたデータの再現性と再確認を実施した。組織細胞レベルの解析では、鰓弓の背側正中部での舌原基の発生と舌形状への形態形成の過程を確かめた。舌原基を構成する細胞種とその分布について特異抗体を用いた免疫組織化学により確認した。後頭体節から移住してきた舌筋系譜の細胞集団が特徴的な分布を示すことや外側舌隆起部分を構成する非筋系譜の細胞の分布、そして被覆する鰓弓上皮がそれぞれ接した位置にあることを再確認できた。 遺伝子発現解析では、計画した通りにDNAマイクロアレイとバイオインフォマティクスによる解析(IPA;GOなど)を行った。舌原基での形態形成の段階により特異に発現する遺伝子群とそのアノテーションを突き止め、発現強度やGene Ontologyに基づいて整理・分類した。このなかで、目的としている舌の形態形成を担う上皮筋系譜間・上皮間葉間・筋/非筋系譜の細胞間相互作用に働く遺伝子候補を列挙することができた。これらの解析結果からも、申請課題での仮説を実証できる可能性が高められたと確信した。なお、遺伝子発現においても採取した試料や解析手法の妥当性を確かめるために、従来提唱されている骨格筋の分化を制御する遺伝子群(Pax3,Myod1,Myf5,Myog,Mef2c,Myf6)についての発現解析を行い、想定通りの結果を得られている。これらの知見を踏まえて、次年度以降の研究計画を遂行していくことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降の研究計画として、リアルタイムPCRによる発現変動の検索、免疫組織化学によるタンパク局在の同定を行い、DNAマイクロアレイ解析データを検証する。微小領域での遺伝子発現についてさらに詳細なデータが必要になった場合には、レーザーマイクロダイセクションを使って対象となる細胞だけを採取して解析する。この解析から得られた確実性の高い候補遺伝子を対象として、舌の形態形成を担う上皮筋系譜間・上皮間葉間・筋/非筋系譜の細胞間相互作用に働く分子ネットワークの構築を行う。上皮と筋系譜/非筋系譜との細胞間の状態を光顕、並びに電顕レベルで検討する。また、外側舌隆起の形成機序を明らかにするために、筋系譜と非筋系譜の細胞の挙動(細胞増殖・細胞死・細胞移動等)について解析する。 さらに、舌の形態形成を担う上皮筋系譜間・上皮間葉間・筋/非筋系譜の細胞間相互作用に働く分子ネットワークの検証と機能解析を目的として、舌の形態形成を再現できる鰓弓器官培養系を用いて、候補分子の阻害や過剰発現等の実験を計画する。加えて、これまでに列挙された候補遺伝子の発現やその機能を制御するmicroRNAについて、マイクロアレイを使った網羅的な解析を行うとともに、候補となったmicroRNAについての検証を行う。得られた研究結果については学術学会で発表していくとともに、データがまとまり次第、論文化し投稿していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度では、研究分担者の作業配分を効率化したことによって、必要経費が予定額よりも抑えられたため、次年度使用額が生じた。今後の研究の推進方策として、遺伝子発現解析に必要な消耗品に使用する。
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