研究課題
生体を構築するまでの発生、成長段階で段階的に形成される骨格系は、未分化間葉系幹細胞から組織への分化過程が重要な役割を果たしている。間葉系幹細胞は、自己複製能と骨、軟骨、脂肪、骨格筋、腱や靱帯などへの多分可能を有する体性幹細胞である。未分化間葉系幹細胞から各種骨格形成細胞への分化は全く異なるファミリーに属する転写因子によって支配されていることが次々と明らかとされた。1997年、ショウジョウバエの体節形成遺伝子のひとつrunt-related transcription factor2 (Runx2)が骨芽細胞の分化を支配する遺伝子の一つとして登場し、Runx2のノックアウトマウスは骨形成が完全に阻害されることが示された。その後のマウスジェネティクスおよびヒト遺伝学の研究成果により、転写因子Runx2とOsterixが骨形成過程において必須的役割を果たしていることが明らかにされてから久しい。しかしながら、Runx2、Osterixノックアウト(KO)マウスでは完全に骨形成が消失するにもかかわらず、それらの標的遺伝子のKOマウスで骨形成障害の程度がRunx2と同等の表現型を示すものは見つかっていない。したがって、骨形成過程において必須的役割を果たす、未知の Runx2およびOsterix標的遺伝子が存在することが示唆される。本研究では、Runx2および Osterixの標的遺伝子を最新のゲノム編集技術を用いてin vivoでのスクリーニングを行い、 その中で骨形成に必須の遺伝子を同定し、骨格形成における遺伝子機能の詳細な解明を行う。
1: 当初の計画以上に進展している
未分化間葉系細胞を多く含むマウス肢芽細胞に対してBmp2、Runx2のアデノウィルスを作用させ、RNA-seqを用いて遺伝子発現プロファイルの解析を行った。その結果、いくつかの基質タンパク質やコラーゲン関連タンパク質の発現上昇が見られない、Smocファミリー遺伝子に着目した。そこで、Cas9ゲノム編集法を用いて、Smoc関連遺伝子のKOマウスを作成し、骨格形成について評価した。その結果、Smoc2のKOマウスでは短頭の表現型を示したが、全身の骨格を野生型マウスと比較しても軽微な変化しか示さなかった。Smoc1のKOマウスは後肢の形成不全、手指の融合等の骨格形成に異常が観察された。両者の遺伝子は機能的に代償する可能性が高いと考えられるため、両方の遺伝子を欠損させたダブルノックアウトマウスを作製し、骨格形成を評価するとSmoc1のKOマウスで見られた骨表現型に加えて、内軟骨骨形成の遅延が見られた。以上のことから、Runx2の下流で機能する新規遺伝子を同定し、骨格形成における重要性が明らかとなったため、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
Smocファミリー遺伝子の発現を促進する低分子化合物のスクリーニングを行い、 骨格形成に対する有効な治療薬への応用を目指す。そのためにSmocファミリー遺伝子の発現を内在性の蛋白レベルでモ ニタリングすることが可能となるように、Smoc-HiBiT-KIマウスから肢芽細胞を単離し、enamine社の化合物ライブラリー(PDR 2000)を作用させ、Smocファミリー遺伝子の発現を誘導する化合物スクリーニングを実施する。HiBiTタグは、アミノ酸がわずか11個からなり、発光物質の酵素ドメイン LgBiTと高い親和性で結合してNanolucを構成し、基質と反応することで非常に強い発光を生じる新規レポーターシステムである。Smoc-HiBiT-KIマウスを活用して、in vitro およびin vivoにてRIPの発現動態の解析とその制御機構の解明が可能となる。本計画で実施するハイスループットスクリーニング(HTS)システム は、複数のヒット化合物が得られることが予想されるが、RIPの発現誘導に対する濃度依存性を検討し、なるべく低濃度で作用するもの、かつ細胞毒性の低い化合物に着目し、さらな るヒット化合物の絞り込みを行う。ヒット化合物をSmoc-HiBiT-KIマウスに投与し、in vivo 発光イメージングシステムにて解析する。
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Communications biology
巻: 4 ページ: 1199
10.1038/s42003-021-02717-7
https://www.dent.osaka-u.ac.jp/topics/2021/topics_20211020_002261.html