研究課題/領域番号 |
21K09829
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
松口 徹也 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 教授 (10303629)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞内シグナル伝達 / 糖質代謝 / 糖尿病 / 肥満症 / JNK / 脱リン酸化酵素 |
研究実績の概要 |
肥満に伴って発生する組織の慢性炎症が、糖尿病、心血管障害、脂肪肝、がんなどの発症の原因となることが明らかになっており、これに関わる分子機構としてストレス感受性キナーゼであるJNKsの役割が注目されているが、その詳細は不明な点が多い。本研究課題は、我々が以前JNKを特異的に不活化するフォスファターゼとして同定した DUSP16の糖質代謝・インスリンシグナルにおける役割を解明し、肥満に伴うJNK活性化とインスリン抵抗性の誘導におけるDUSP16の役割を明らかにすることである。 2021年度における研究で、マウス胎児線維芽細胞(MEF)、筋芽細胞株(C2C12)、脂肪前駆細胞株(3T3-L1)におけるDUSP16の蛋白・mRNA発現レベルは、細胞周囲グルコース濃度変化(100mg/dl→300mg/dl)に反応して上昇した。また、インスリン反応性のグルコース輸送体として知られ、インスリンによる血糖降下作用の主体とされるGLUT4のグルコース依存性発現誘導は、siRNAによるDUSP16の遺伝子ノックダウンによって著明に抑制された。また、細胞周囲グルコース濃度依存性のGLUT4の発現誘導は、我々が作成したDUSP16ノックアウトマウス由来のMEF細胞では認められなかった。これらの所見から、DUSP16が細胞外グルコース濃度に依存して発現量が調節される「エネルギーセンサー分子」としての働きを持ち、グルコース供給に見合ったインスリン反応性を維持する調節分子として機能する可能性が示唆された。 TET-ON発現誘導システムを利用したDUSP16の強発現実験系の作成する目的で、マウスおよびヒトDUSP16のcDNAをRT-PCR法にて合成し、pTre2-Hygベクターに挿入した。作成した発現ベクターは、ドキシサイクリンの刺激によってDUSP16の発現誘導を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MEFおよび複数の培養細胞株(筋芽細胞、脂肪前駆細胞)を用いたin vitro実験は順調に進行している。また、DUSP16およびGLUT4の発現レベルの細胞周囲グルコース濃度反応性の上昇が解析した複数の細胞種で共通に認められたことは、これらの現象の普遍性を示しており、今後の解析に期待が持てる。現在、上記の各種細胞種に、TET-ON発現誘導システムを利用したDUSP16強発現を誘導可能な細胞クローンの作成を進めており、既に数個のクローンの単離に成功している。今後はこれらの発現誘導システムも解析に加えていく予定である。また、GLUT4以外のグルコーストランスポーターの発現レベルの解析も加えていく予定で、既に予備実験では興味のある所見が得られている。長期間に渡る高カロリー摂取や過度の肥満によってDUSP16を介した細胞内JNK活性制御機構が不調となるとJNK活性が亢進し、Ⅱ型糖尿病などの合併症に繋がるというのが我々の現在の作業仮説であり、系統維持しているDUSP16遺伝子欠損マウスを用いて、耐糖能異常の発症頻度などについての解析の準備を行っている。今後の研究成果によって、肥満におけるJNK活性調節機構を新たに解明できれば、将来的には肥満に合併する糖尿病、心血管障害などの疾患のより効率的な予防・治療法の開発に繋がることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
近年の研究で、膵臓β細胞のような特殊な細胞以外の細胞でも周囲のグルコース濃度を感知する能力があることが示されており、グルコース感知に関わるとされているグルコース輸送体(GLUT2)、キナーゼ(AMPキナーゼ)、転写因子(ChREBP)などの候補分子から、グルコース反応性のDUSP16発現誘導に関わる責任分子を同定する。DUSP16遺伝子上流の転写調節領域を含んだルシフェラーゼレポータープラスミドによるプロモーター機能解析によってグルコース反応性に関わる転写調節領域を解明する。 申請者らが近年に作成したDUSP16遺伝子KOマウスおよび野生型マウスに、高脂肪飼料を与え、体重・血糖値の経時変化を4群間で比較する。それぞれの群から数匹ずつのマウスについて、耐糖能試験およびインスリン負荷試験を行い、それぞれ血糖値+インスリン濃度と、血糖値を計測し、臓器組織像を解析する。また各組織からRNA抽出し、GLUT4、炎症性サイトカイン(TNFalpha、IL-6等)、インスリン(膵臓)等のmRNA発現の定量解析を行うとともに、蛋白抽出によってJNKリン酸化レベルとDUSP16蛋白発現量の差異を解析する。野生型マウスの通常飼料および高脂肪飼料投与群の両群間で、各組織におけるDUSP16蛋白発現量を比較し、高カロリー食がDUSP16の発現量に及ぼす影響を解析する。少数マウスを用いた予備実験の結果から、長期間に高脂肪飼料投与によってDUSP16蛋白発現レベルが低下することを予想しており、その場合は、培養細胞を用いたin vitro実験によって、肥満に伴うことが報告されている各種細胞ストレスのうち、DUSP16蛋白発現レベルを低下させるものを同定する。もし高脂肪飼料投与にてDUSP16発現量に変化が見られなかった場合は、より強度の肥満を誘導できるob/obマウスを用いて同様の実験を行う。
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