研究実績の概要 |
成熟期エナメル芽細胞は、pH調節やミネラルの輸送、タンパクの分解吸収を行うことでエナメル質の石灰化を担うリゾホスファチジン酸(LPA)は、細胞膜の主要成分であるリン脂質から合成されるリゾリン脂質メディエーターで、組織特異的に発現する受容体 (LPA1~6) を介し、さまざまな生理的機能を有するが、歯の発生・疾患との関連はまったく不明である。本研究は、エナメル質石灰化機構の全容解明を目指し、成熟期エナメル芽細胞におけるLPA-LPA6シグナルの役割を解明する。そして、この破綻による成熟期エナメル芽細胞への影響とエナメル質形成不全発症との関連を明らかにすることを目的とした。これまでLPA6とやLPA合成酵素(ATX, PA-PlA1a)が成熟期エナメル芽細胞に特異的に強く発現すること, LPA6-RhoAシグナルが成熟期エナメル芽細胞の細胞接着、極性形成に寄与していること、さらに成熟期エナメル芽細胞の波上縁構造をもつ細胞集団(RA)と持たない細胞集団(SA)ではエネルギー代謝状態(酸化的リン酸化と解糖系)が異なることを見出した。本年度はこのエネルギー代謝と細胞の変化がどのような要因で起こるかについて検討をくわえた。その結果成熟期エナメル芽細胞を低酸素環境下に置くと解糖系優位のエネルギー代謝状態にシフトし、ほとんどの細胞がSAに誘導されることが明らかとなった。さらに低酸素環境では成熟期エナメル芽細胞はエナメル質石灰化能が低下することから、酸素環境変化によるエネルギー代謝状態のシフトがRAとSAのフェノタイプを変化させることでエナメル質石灰化の調節に関与していることが明らかとなった。今後はLPA6-RhoAシグナルと低酸素環境との関連、LPA6-RhoAシグナルがRAとSAのシフトにどのように関わっているのかを明らかにするための研究を引き続き行ってく予定である。
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