研究課題/領域番号 |
21K09834
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 講師 (10453648)
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研究分担者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠時ブラキシズム / GABA / Serotonin / Glycine / 薬理遺伝学 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
ブラキシズムは歯ぎしりや食いしばりなどの口腔悪習癖の総称で、ストレスや薬剤の服用など、さまざまな因子が複雑に関与して発症する多因子疾患であるが、その発症メカニズムはいまだ不明である。我々は、ブラキシズムの誘発因子の一つで抗うつ薬であるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)をマウスに投与し、睡眠中、とくにノンレム睡眠中の咀嚼筋の活動性が上昇することを明らかにしたが(Ikawa Y. et al. Neurosci Res, 2016)、強い増強効果は認められなかった。そこで本研究では、睡眠時ブラキシズム発症に関与が指摘されているセロトニンあるいはGABAの作用、およびこれらの相互関連について明らかにするため、三叉神経運動核と神経連絡がある部位のニューロンを薬理遺伝学的手法を用いて検討し、セロトニン神経あるいはGABA神経の活動を人為的に操作したときの咬筋活動への影響を調べることで、ブラキシズムの発症メカニズムの解明に迫る。 申請者はこれまでに、脳波や各種筋電図などの生体電気信号取得システムを構築し、このシステムを用いて、2021年度は、三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABA産生ニューロンの活動性を薬理遺伝学的に抑制、あるいは興奮させたときの睡眠覚醒時間ならびに咬筋活動性を検討した。2022年度は2021年度と同様に、三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する腹背外側核(sublaterodorsal nucleus: SLD)に存在するGABA産生ニューロンの活動性を薬理遺伝学的に抑制、あるいは興奮させたときの睡眠覚醒時間ならびに咬筋活動性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DREADD(Designer receptors exclusively activated by designer drugs)は、神経細胞の活性化または抑制を人為的に操作ができる薬理遺伝学的手法として、近年の脳神経科学分野の研究で盛んに用いられている。DREADDは人工的リガンドCNOの受容体で、DREADDのhM3Dqを発現させると神経活動を活性化、hM4Diを発現させると抑制することができ、CNOを腹腔内投与することで神経活動を任意のタイミングかつ数時間操作できる(Roth BL. et al. Neuron, 2016)。GABAニューロン特異的Creマウスであるvesicular GABA transporter (VGAT)-CreマウスのCre依存的にGABAニューロンにhM3DqあるいはhM4Diを発現させ、CNOを腹腔内投与したとき、GABA神経の活動が咬筋の活動にどのように影響するか検討した。三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABAニューロンの活動性を抑制(hM4Di)、あるいは興奮(hM3Dq)させたときの咬筋活動性を検討したところ、どちらの条件でも睡眠覚醒時間は変化がなく、また、咬筋活動性にもほとんど変化が認められなかった。さらに、腹背外側核(sublaterodorsal nucleus: SLD)に存在するGABA産生ニューロンの活動性を薬理遺伝学的に抑制、あるいは興奮させたときの咬筋活動性を検討したところ、SLDに存在するGABA産生ニューロンは咬筋活動性にほとんど影響していないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)あるいは腹背外側核(sublaterodorsal nucleus: SLD)に存在するGABAニューロンの活動性を薬理遺伝学的手法であるDRREADDのhM3Dq(興奮させる)およびhM4Di(抑制させる)を用いたときの咬筋活動性を検討したところ、どちらの神経核のGABAニューロンを興奮させたとき、あるいは抑制させたときのいずれの場合も咬筋活動性にもほとんど影響が認められなかった。そこで、GABAニューロンの活動性を人為的に制御できる状態で脳内のセロトニン濃度を上昇させる作用があるSSRIをマウスに投与したとき咬筋活動性はどのように変化するか検討することで、ブラキシズムの発症メカニズムにセロトニンとGABAがどのように関与しているかを詳細に解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2022年度まで、三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)および腹背外側核(sublaterodorsal nucleus: SLD)に存在するGABAニューロンの活動性を薬理遺伝学的手法であるDRREADDのhM4DiをAAVを用いて発現させ、GABAニューロンを抑制して検討したところ、睡眠覚醒時間は変化がなく、咬筋活動性にもほとんど影響が認められなかった。そこで、2023年度は、GABAニューロンの活動性を人為的に制御できる状態で脳内のセロトニン濃度を上昇させる作用があるSSRIをマウスに投与したとき咬筋活動性はどのように変化するか検討することで、ブラキシズムの発症メカニズムにセロトニンとGABAがどのように関与しているかを詳細に解析することとしたため。 (使用計画)vlPAGおよびSLDのGABAニューロンを活性化させるために、Addgene社などから購入するAAVベクターを応用した光遺伝学的、または薬理遺伝学的手法を用いて、GABA神経系特異的に活性化あるいは不活性化させる予定である。
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