研究課題/領域番号 |
21K09836
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉垣 純子 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (40256904)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クリノファジー / 唾液腺 / 分泌顆粒 / タンパク質分解 / オートファジー |
研究実績の概要 |
唾液腺細胞内の分泌顆粒の動態を観察するために,レポータータンパク質であるHaloTagと分泌タンパク質の融合タンパク質の発現系を作製した。HaloTagは培地に膜透過性の蛍光リガンドを添加することによって生きた状態でラベルが可能である。したがって,時間を変えて異なるリガンドを添加することによって,最初のラベル前に合成されていたタンパク質とその後に新しく合成されたタンパク質を染め分けることが出来る。また,共有結合でのラベルのため,細胞内でラベルした後にタンパク質を抽出,電気泳動して,タンパク質量を測定することが可能である。唾液腺腺房細胞の初代培養細胞に発現させたHaloTag融合タンパク質が分泌顆粒へ輸送されるかを確認した。その結果,唾液タンパク質であるparotid secretory proteinとHaloTagの融合タンパク質Psp-Haloは,シスタチンDとの融合タンパク質Cst5-Haloよりも効率よく分泌顆粒へ輸送され,分泌顆粒の特異的な観察に適していることが明らかになった。一方,分泌顆粒内におけるタンパク質分解を測定するために,HaloTagリガンドでパルスラベル後タンパク質を回収し,ゲルイメージングによってタンパク質量の時間変化を測定することを試みた。分泌顆粒は刺激依存的に開口放出されるが,非刺激時も少量ながら分泌されている。そこで,時間依存的に細胞と培地を回収し,細胞内貯留量と分泌量の時間変化をそれぞれ測定した。HaloTagリガンドでラベルして8時間後に細胞内に残留した量と分泌された量の和を求めると,ラベル直後に細胞内に存在した量と比較して減少しており,培養8時間の間に何らかの分解を受けていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分泌顆粒の動態を観察するためにレポータータンパク質の発現系を作製し,分泌顆粒へ輸送されることを確認した。その後,分泌顆粒とリソソームを同時にラベルしてその融合と,分泌顆粒内のタンパク質分解過程を観察する予定だった。しかし,年度末に共焦点レーザー顕微鏡が故障し形態学的な観察ができなくなったため,その点では予定通りに進まなかった。代わりに生化学的な分析方法の開発を行った。分泌タンパク質が合成された後,細胞内に貯留する時間の測定,ラベルされた分泌タンパク質量の時間変化を測定する系を立ち上げた。タンパク質量の時間変化を定量化することができたため,生化学的なクリノファジーの評価が可能になると期待される。令和4年度は顕微鏡の修理が終わり次第,形態学的な観察を再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. クリノファジーの形態学的観察システムの完成 分泌顆粒へ効率よく輸送されることが明らかになったPsp-Haloを唾液腺腺房細胞に発現させた後,パルスラベルし成熟顆粒だけを可視化する。リソソームをラベルするGFP-LAMP2を唾液腺腺房細胞に発現させ,時間経過と共に局在が重なるかを観察する。また,pHに依存して励起波長が変化する蛍光タンパク質の分泌顆粒への発現系を作製し,pH変化と蛍光消失をトラッキングすることでリソソームとの融合・タンパク質の分解を解析する予定である。 2. クリノファジーの生化学的な定量化 令和3年度に分泌タンパク質のパルスラベルによる分解量測定の系を立ち上げたが,クリノファジーによるタンパク質分解を定量化するためには,細胞外でのタンパク質分解を抑制する必要がある。唾液腺腺房細胞の初代培養系では,細胞外プロテアーゼであるmatrix metalloproteinaseやセリンプロテアーゼの発現が確認されており,細胞外に分泌されたタンパク質も分解を受けることが予想される。そこで,培地に細胞膜非透過性のプロテアーゼ阻害薬を添加して,細胞外に分泌されるタンパク質量が増加するかを確認する。細胞外でのタンパク質分解を抑制することによって,細胞内における分解だけを定量することを目指す。 3. クリノファジー誘導の試み 通常の培養状態ではクリノファジーの頻度は低いことが予想される。その場合はクリノファジーの検出および定量化に困難が生じる恐れがある。そこで,細胞にストレスを加えてクリノファジーを促進することを試みる。活性酸素を発生させるメナジオンやアポトーシスを誘導するTNFの存在下で唾液腺細胞を培養し,分泌タンパク質の分解が促進されるかを検討する。より検出しやすい状態でクリノファジーを観察・定量化し,分子機序の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
共焦点レーザー顕微鏡の故障により形態学的観察のための実験計画を延期し,リソソームの観察用に購入予定であった試薬の購入を見送ったため,次年度使用額が生じた。令和4年度に顕微鏡修理を予定しているので,修理状況に合わせてリソゾームをラベルするための試薬を購入し,リソゾームと分泌顆粒の同時観察を行っていく予定である。
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