研究実績の概要 |
昨年度に行った HSC-4 における ladinin-1 (LAD1) 発現抑制下における, 非抑制細胞を対照サンプルとして, 次世代シーケンサーによるRNA-seq を用いた transcriptome 解析結果を詳細に検討した. LAD1 の発現状態は扁平上皮癌細胞の細胞接着性, 細胞分化に関わる可能性が見出されたものの, その背景に WNT pathway が直接的に関与している証左を得ることはできなかった. 一方, 公開データベースを用いた解析では, 頭頸部扁平上皮癌の臨床組織検体における LAD1 の発現が高い群は, 病理組織学的な分化度が高い傾向があることが示された. これまでの検討で, LAD1 の発現を減弱させた扁平上皮癌培養細胞株では, vimentin 陽性細胞率が増加することが示されており, 扁平上皮癌における LAD1 発現が上皮性分化と細胞遊走能という別々の細胞現象に関与している可能性が補強された. LAD1 の発現量に対する扁平上皮癌の分化および運動性制御における制御機構の解明までは至らなかったが, これまでの検討で見出された癌の側方上皮内進展と間質浸潤の両現象が LAD1 に相反的に制御されている可能性については, 上皮分化と細胞遊走能の制御の観点から説明されうると考えられた. すなわち, 腫瘍中心部と腫瘍辺縁部における LAD1 発現の不均一性が, 相対的に腫瘍辺縁部では上皮内進展が起きやすく, 中心部では間質浸潤が生じやすい状況を形成していると考えられた.
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