研究課題/領域番号 |
21K09846
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小林 良喜 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (10609085)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸ー口腔相関 / 免疫系バイオマーカー / 抗菌ペプチド |
研究実績の概要 |
生体の入り口(消化器系と呼吸器系)である口腔は、外来抗原や病原性微生物の侵入を防ぐ重要な場所である。口腔は軟組織(歯肉・舌・頬)と硬組織(歯)から構成され、酸素の豊富な好気的部位や少ない嫌気的部位が混在し、多様な常在菌叢が存在する。また、顎骨が裏打ちすることで他の消化器官と異なるユニーク性を有している。 近年、免疫系システムは生体防御作用だけでなく生体リズムを一定に保つ生体恒常性の維持・亢進における中心的な役割を担うことが報告されている。免疫細胞の約6割が存在している腸管は栄養素の消化・吸収の場だけでなく、独自に構成された固有の細菌叢により免疫細胞を活性化させる場として注目され、腸管粘膜免疫システムが有する免疫細胞の全身循環の起点として、多臓器間ネットワークシステムの解明など様々な取り組みがなされている。しかしながら、口腔に対する免疫波及機序は依然として不明な点が多い。本研究では腸管を起点とした口腔への免疫波及機序の解明を目的に免疫系シグナル分子を中心に探索を行う。 これまでに、乳酸菌の胃内投与により唾液中に抗菌性ペプチド(ベータディフェンシン3; bD3)の産生誘導することで、口腔内疾患の発症抑制・軽減することを報告している。しかしながら、腸―口腔を相関する誘導経路については不明である。そこで、我々は唾液bD3の産生誘導機序について免疫システムのうち、自然免疫システムに着目し①液性因子、②免疫細胞の動態を中心に検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸管を起点とした口腔領域の免疫応答を賦活化させる誘導機序を解明するために、乳酸菌をゾンデにより胃内投与を行なった。対照群と比べて唾液中に抗菌性ペプチド(β-ディフェンシン; bD3)が誘導されることを認めた。bD3は主として上皮から産生されることから舌、歯肉から採取したtotal RNAを用いてbD3特異的mRNAの発現をリアルタイムPCRにより検討したところ、顕著に誘導されていた。上皮細胞におけるbD3の産生誘導は常在菌や外来抗原により刺激された樹状細胞を介して活性化されたエフェクーT細胞から産生されるIL-22を介することが知られている。そこで、乳酸菌投与マウスで検討したところ血液中のIL-22産生が有意に増加していた。興味深いことにIL-22を受容体(IL-22R)は腸管細胞や上皮細胞に有意に発現していた。また、拮抗作用を示すIL-22 Binding protein (BP)は逆相関を示していた。これらの結果から、乳酸菌の投与により腸管の免疫システムが活性化することで、IL-22が口腔周囲組織へ自然免疫システムを中心に波及させることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、乳酸菌により活性された腸管免疫システムは自然免疫システムを中心とした全身波及効果を示すことが示唆された。IL-22は全身循環する液性因子と考えられるが、産生細胞として近年注目されているエフェクターT細胞(Th22)や3型自然リンパ球(Innate lymphocyte cell type 3; ILC3)が考えられる。Th22は主に獲得免疫システム、ILC3は主に自然免疫システムとしてIL-22の産生応答に関与するので、今後、Th22やILC3が腸管免疫と起点とした免疫波及化の役割を担うことを検討する。 生体内におけるTh22/ILC3の細胞動態を検討するために、当研究室で所有している光変換蛍光タンパク質発現(KiGR)マウスを用いて検討する。KikGRマウスは紫外線照射により起点とする臓器/組織から細胞遊走の検討が可能である。そこで、KiKGRマウスを用いて乳酸菌により活性化された腸管免疫システムに所属する免疫細胞が口腔周囲組織に移行することを検討することで、IL-22産生細胞の評価を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
IL-22産生細胞の局在および動態を検討するために乳酸菌投与マウスの腸管、歯肉、頚部リンパ組織等から単離した単核細胞に蛍光標識抗体を用いて検討を行ったが蛍光標識抗体の選定やマウスから得られた細胞数が少なく解析に供する十分な細胞数を確保することができなかったため予定していた計画に遅れを生じた。本年度の研究結果から腸管および歯肉組織中にIL-22Rの発現を認めていることから、IL-22の役割は重要である。マウスの生体内におけるIL-22産生細胞の動態を検討できない場合は、細胞培養系を確立してIL-22刺激下におけるbD3産生応答の検討を行う。当研究室には腸管上皮細胞(Caco-2)や歯肉上皮細胞(Ca9-22)を所有している。本年度の計画が遅れたことで次年度使用が生じたが、次年度にヒトbD3検出用抗体に充てることで評価する。
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