研究課題/領域番号 |
21K09848
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
今村 泰弘 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (00339136)
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研究分担者 |
三好 智博 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (60534550)
雪田 聡 静岡大学, 教育学部, 准教授 (80401214)
十川 紀夫 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 教授 (30236153)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 唾液蛋白質 / ヒスタチン |
研究実績の概要 |
免疫抑制薬の副作用である歯肉増殖症は歯周病の発症と、また、易感染性は歯周病・う蝕・カンジダ症等の発症・進行や憎悪と密接に関係している。その他、上記口腔疾患の発症・進行に影響を及ぼす要因として、唾液成分の質・量的変化がある。唾液蛋白質ヒスタチンは歯周病原菌やカンジダ菌等に対して抗菌活性をもつ。また、AIDS患者では、ヒスタチン量が有意に減少することにより、口腔カンジダ症を発症しやすくなる。これまでに我々は、ヒスタチンが熱ショック蛋白質(HSP)と結合し、ヒト歯肉線維芽細胞の増殖・生存を促進することについて報告した。 グルココルチコイド受容体(GR)はHSPsと結合して細胞質に存在しているが、グルココルチコイド(GC)がGRに結合するとHSPsは解離し、GRは核内に移行して転写を調節する。ヒスタチンもGR同様、HSPと結合して生理的機能を果たすことから、ヒスタチンはGCの作用に影響を及ぼす可能性がある。そこでまず、デキサメタゾン(DEX)の有無(DEX(+), (-))におけるGRとHSPs間の結合及びこれに対するヒスタチンの影響を調べた。DEX(-)では、これら蛋白質の複合体形成は認められたが、DEX(+)ではこの形成が低下し、ヒスタチンはこれをより一層低下させた。また、ヒスタチンとGR-HSPs複合体との結合をDEX(+), (-)条件下で解析したところ、その結合はDEX(-)で認められた。以上から、ヒスタチンはGR-HSPs複合体に結合し、GCのGRへの結合によるHSPsの遊離を促進することが明らかとなり、GRの転写調節に影響を及ぼすことが示唆された。 また、我々は、ヒスタチンが免疫抑制薬FK506の結合蛋白質FKBPの遺伝子発現を誘導することについて示唆していた。そこで、ヒスタチンによる細胞内でのFKBPの量的変化を解析した。その結果、ヒスタチン量に依存したFKBPの蛋白質量増加が認められた。従って、ヒスタチンはFK506を介したFKBPの機能やNF-ATの転写調節に影響を与えることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、唾液蛋白質ヒスタチンによる免疫抑制薬(ステロイド薬やFK506など)の作用への影響について調べ、唾液蛋白質の新たな機能を解明していく。 GCはその受容体GRと結合してHSPsを解離させ、GC-GR複合体は核内に移行後、転写因子として働く。ヒスタチンはHSPと結合し、細胞の増殖・生存を促進する。この様に、ヒスタチンに直接結合する蛋白質が存在し、これに別の蛋白質が結合することにより、結果として様々な生理的機能を呈している。これら蛋白質の中には、薬物と結合するもの(GR)が含まれている。従って、ヒスタチンはGC存在下における上記蛋白質間の結合に影響を与える可能性があったため、幾つかの蛋白質間結合実験を行った。これらの結果は、GRの転写調節に影響を与える可能性が示唆された。今後、この転写調節などを詳細に解析することで研究をより進展させ、本研究の目的が達成されるように努めていく。 また、今回、ヒスタチンは細胞内に存在するFKBPの蛋白質量を増加させることが実験的に明らかとなった。この結果は、ヒスタチンがFK506-FKBP複合体の作用及びNF-ATの転写調節に影響を与えることが考えられ、今後の更なる唾液蛋白質の機能解明に繋がる。 以上から、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、唾液蛋白質が免疫抑制薬の効果・作用に対してどの様な影響を及ぼすのかを明らかにすることが目的である。これまでにヒスタチンは、1)DEXの受容体とこれに結合する蛋白質間の相互作用に影響を及ぼす、2)FK506と結合するFKBPの蛋白質量を増加させることが示唆された。これらの知見を基に、ヒスタチンによる薬物を介した細胞内シグナル伝達経路(特に、転写調節など)への影響を詳細に解明することにより、唾液蛋白質の新規機能を見出し、上記目的の達成を目指す。 様々なウイルスの構成成分はToll様受容体(TLR)のリガンドとなり、炎症性サイトカインの産生を促進する。新型コロナウイルスも例外ではなく、このウイルス構成成分による誘発性炎症に対するヒスタチンの抑制作用・効果を詳細に解明することを目指している。これらの結果が明らかになれば、唾液蛋白質の新たな生理的機能が解明され、また、現在、新型コロナウイルスに関する様々な知見が必要とされている事に対し、その一端を担うことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額が生じた理由」:おおむね計画通りに研究費を使用した状況であるが、次年度使用予定の助成金を生ずる結果となった。これは、安価な、或いはキャンペーン割引価格を利用した試薬などの購入を行い、総じて研究費の節約に努めながら本研究課題を遂行したためである。 「使用計画」:生じた次年度使用額は、試薬などの購入や解析費用などに充当する計画である。
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