研究実績の概要 |
プロテオーム解析用の検体として、扁平上皮癌の診断のもと手術されたヒト口腔癌病理標本20症例を選択した。まずは浸潤部癌胞巣周囲の癌関連線維芽細胞(以下、CAF)の有無を形態学的に観察して、CAFが目立つ症例と目立たない症例とで分けて、更にそのマーカーであるα-SMAを用いた免疫染色により検討したところ、CAF陽性群12例、CAF陰性群8例に分けることができた。一部のCAF陽性群のFFPEブロックから薄切片を作成し、浸潤部の腫瘍胞巣のみをレーザーマイクロダイゼクションによりサンプリングして、専用のキットを用いてタンパク質を抽出・トリプシン処理後に、LC-MS/MSによる質量分析を行った結果、72個のタンパク質を同定した。 一方で、癌細胞の移動能力や浸潤能力、細胞内でのより詳細なシグナル伝達機構を解析するためには培養細胞を用いた検証が必要であるため、ヒト口腔癌細胞株とヒト線維芽細胞を用いた培養細胞実験も並行して行った。ヒト口腔癌細胞株(HO1-N-1、HSC-5)とヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)をtranswellを介して共培養すると、癌細胞単独培養と比較して、共培養系では癌細胞の移動能力、浸潤能力が亢進する事が見出された。また、共培養後、癌細胞のタンパク質を抽出してウェスタンブロットにて解析した結果、単独培養と比較して共培養した癌細胞ではAKTのリン酸化亢進, 一部のWNTリガンドの発現上昇、活性型β-Cateninの増加など、複数のシグナル経路の活性化が認められた。 今後、CAF陽性群、陰性群でのLC-MS/MSによる質量分析を順次行っていき、培養細胞を用いたin vitroの系で得られる結果との整合性とも照らし合わせて検証していく。
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