研究課題
がん細胞は正常細胞とは異なる脂質代謝を有することが知られ、近年、がんにおける脂質クオリティ(脂質組成)の重要性が示されつつある。我々はこれまでに、口腔扁平上皮癌細胞は同種死細胞に対する貪食能を有し、死細胞貪食により細胞機能が活性化されることを報告してきた。本研究課題では「死細胞貪食を起点としたがん細胞活性化の機序に、死細胞由来脂質によってもたらされる脂質クオリティ変化が関与する」という仮説の検証に取り組み、期間全体を通じて、以下の知見を得た。1) 口腔扁平上皮癌細胞による死細胞貪食:口腔扁平上皮癌由来培養細胞株を脂質親和性色素PKH26にて標識後、凍結融解でネクローシスを誘導した死細胞を、同種生活がん細胞と共培養した。共焦点レーザー顕微鏡解析から、死細胞断片は生活がん細胞の細胞質内に取り込まれることが確認できた。2) 死細胞貪食による細胞内コレステロール量の変化:口腔扁平上皮癌由来培養細胞を、紫外線照射により誘導した同種死細胞と共培養し、細胞内コレステロール量を酵素定量法で計測した。その結果、細胞内コレステロール量は、単独培養と比較して約1.4倍に増加した。3) 細胞内コレステロール増加による細胞機能変化の検討:上記検討から、死細胞貪食後に細胞内コレステロールが増加することが示された。そこで、細胞内コレステロール増加が口腔がん細胞の活動性に及ぼす影響を検討した。コレステロール-MCD複合体を用いて細胞内コレステロールを増加させると、細胞形態は多辺形から扇状へと変化し、細胞遊走能が有意に上昇した。コレステロール増加に伴い、コレステロール結合蛋白質であるcaveolin-1が細胞膜上に非対称性に分布すること、caveolin-1の非対称性分布が細胞遊走能亢進に関連することを示した。以上の結果から、口腔扁平上皮癌細胞は死細胞由来のコレステロールを利用することで、細胞機能を活性化する可能性が示された。
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新潟歯学会雑誌
巻: 53 ページ: 1-4